2016-11-10

悪意の商標出願の問題 = 注目される議論の行方= by 工藤莞司 弁理士

悪意の商標出願とは 数年来、悪意の商標出願について、国際的に議論されているようである(10月末中国でシンポジュウム開催、JPOウェブサイト参照)。どのような出願かについては、『商標が登録されていないことを利用して、第三者が悪意により他人の商標を出願・登録するという、いわゆる「悪意の商標出願」』のようである。
商標法上、悪意の用語はなく、民法上の善意、悪意と同じであれば、他人の商標を知りながらの出願ということになろう。当該出願人の主観的意図で、内心の問題である。商標法では、主観的要件としては、不正競争の目的や不正の目的が使用されていて、後者は不登録事由4条1項19号にある。不正の目的は、単に知っているだけでは足りず、不正な利益を得る目的や他人に損害を加える目的等とされている。しかも、対象商標が、外国周知を含み周知商標であることが前提要件である。
パリ条約上、周知商標の保護を定めた6条の2(3)には、「善意」(公定英訳bad faith)とあるが、この規定を受けた商標法47条1項括弧書きは、「不正競争の目的」としている。

審査能力との関係 そして、現行商標法を前提にすれば、職権審査である(15条)。悪意、すなわち出願人の内心上の意図を審査官が職権で探知することは極めて困難である。拒絶するには、悪意について審査官が証明する必要があるからである。他人の商標が周知・著名で独創的な商標であれば格別、4条1項19号に係る審判決の大半が異議申立てや無効審判請求によるものであることからも明らかであろう。
そこで思い出されるのが、旧15条4号の規定(平成8年改正で削除済み)である。許諾等を得ないでした外国商標の代理人等による登録の無効等を定めたパリ条約6条の7を受けて、昭和40年の改正で追加されたもので、やはり当事者間の許諾等の有無は審査官には把握できないため、専ら異議申立てよる審査、拒絶を規定していた。
商標法4条1項7号の適用も考えられようが、最近では、知財高裁が公益規定を理由に他人の商標の盗用出願については制限的あり(「コンマー事件」知財高裁平成20年6月26日判決外)、審決もこれに倣っている。

課題等 ともあれ、悪意出願の範囲が必ずしも明確ではなく、先願登録主義下において、その拒絶、無効の理由の規定、また、職権審査との関係はどのように調整されるのか、今後の議論や検討が注目される。(工藤 莞司)