2016-12-22

DNA会員名簿営業秘密事件

事件番号:知財高裁平成27年(ネ)第10137号 「DNA会員名簿営業秘密事件」(平成28年6月13日 原審東京地裁平成26年(ワ)第16526号 平成27年9月15日)

事案の概要
本件は、原告が、原告の元会員被告らが原告の営業秘密「DNA会員名簿」(「原告(控訴人)名簿」)を使用して、原告名簿記載の者に対し、原告に関する虚偽の情報を流布するなどして原告を退会するよう勧誘し、原告販売商品と類似する被告商品を販売しているなどと主張して、被告らの行為が不正競争防止法2条1項7号(保有者提示の営業秘密を不正に使用する行為)に該当するとして、その差止め及び損害賠償支払を求めた事案である。原審は、被告らは原告営業秘密を使用していないとして請求を棄却したため、原告が控訴した。

争  点  被控訴人らは控訴人主張の営業秘密を使用したか。

結  論 
控訴人名簿及びその抜粋と認められる被控訴人ら受領のリピーターマップ(「控訴人名簿等」)の記載内容は、住所、電話番号等の連絡先に係る情報を含まないため、これらを使用しても控訴人名簿等に記載された者に対して連絡を取ることはできない。そうすると、控訴人名簿等に記載の者に対して連絡をとるためには、別途、控訴人名簿等以外の情報源に基づくほかない。したがって、それらの者との連絡に際しては、控訴人名簿等は使用されていないと推認される。また、会員名以外の控訴人名簿等記載情報については、控訴人から、被控訴人らの使用について具体的な主張立証がなく、その使用の事実を認める余地はない。そうすると、被控訴人らが控訴人名簿に係る営業秘密を使用したとは認められない。

コメント
本件は、原告の元会員であった被告らが、原告提示の営業秘密「顧客名簿」を使用したと争った事案で、原審、控訴審いずれもその事実はないとしたものである。営業秘密不正行為として争う事案は多いが、請求棄却が圧倒的である。元社員や契約関係にあった者がその後短期間内に身近で営業上のライバル関係になって、顧客名簿等の盗用を疑い、確証の無いまま営業秘密不正行為を持ち出す傾向にある。このため多くの裁判例では、基本的要件たる営業秘密管理性の要件を満たさないとして棄却されている(拙著「不正競争防止法解説と裁判例改訂版」86頁以下、最近では、知財高裁平成27年(ネ)第10118号 平成28年3月8日判決)。本件では、その点は差し置き、被告・被控訴人らは、原告・控訴人の営業秘密を使用していないとされたものである。(工藤莞司)