2017-05-19

ロシア:トレードドレスの正しい守り方 - GORODISSKY & PARTNERS

ロシア民法、その他の法規制や公的なガイドラインには、何れにも「トレードドレス」の定義は含まれていない。しかしながら知財実務において、「トレードドレス」という用語は製品の外観を表すものとして広く使用されている。つまり、その製品の出所を表示する、製品あるいはその包装の視覚的な外観の特徴を指すものである。また知財実務では、「トレードドレス」は、製品ラベル、製品デザインと包装、販売店の内装と外装のデザインを含む法律用語として広く解釈されるべきであることを示唆している。「トレードドレス」は、個別化の手段として機能すると言えるので、民法の下で保護されるべきであろう。

商標それとも意匠?

ロシアでは、ラベルを含む製品の外観や包装は、商標または意匠として保護することができる。どちらの保護もそれぞれの特徴があり、保護の機能は選択された権利が正しかったかによって異なってくる。

民法第1352条は、工場で製造されたか又は自家製の物品の外観を「意匠」と定義している。第1477条では、法人又は個人事業主の商品を識別することが可能な標章を「商標」を定義している。意匠も商標も似たような機能を果たすが、すべてが両方の権利保護を享受できるわけではない。

商標保護を受けることができるが、意匠の保護を受けることができない最も一般的な例は、商品に付す文字と図形である。同様に、意匠の要件を満たす全ての表現が商標保護を受けられるわけではない。例として民法では、商品の写実的な表現は商標の登録を明示的に禁止しており、そのような表現が保護されうるのは意匠のみである。

ロシアの実務では、商標として保護を受けることができるトレードドレスの最も典型的な例は、製品ラベル、製品形状、製品容器などを含む従来型のものであった。しかし最近の実務では、トレードドレスを保護するために非伝統的商標を登録する傾向を示しており、幾つかの注目すべき成功例も見られる。

ロシア最大のロシア貯蓄銀行(Sberbank)は、36類の銀行サービスを指定して緑色単色の商標(ロシア商標登録番号556088)を登録することにより、トレードドレスの保護を獲得した。もう1つの例は、英国のオールセインツ(All Saints Retail Limited)で、小売業を指定して店舗窓口に置かれたミシン棚を表現した商標(ロシア商標登録番号447940)を登録することによって店舗の内装の保護に成功している。

ロシア貯蓄銀行のケースはユニークである。現在のロシア商標実務の下では、単一色の商標は本質的な識別力があるとはみなされないが、商標が優先日前にロシア市場で広範囲で幅広く使用されることで商標登録に必要な識別力を獲得したことを証明することで、唯一商標登録が可能となる。

公開情報によると、オールセインツのケースでは、審査中に異議がなく登録に成功している。これは原則として、そのような表現がロシア法の下で保護を受けることができるということを示唆している。

物品の一部の外観が非伝統的商標として保護されているもう一つの興味深い例は、25類の女性用履物を指定した「クリスチャン・ルブタン(Christian LOUBOUTIN)」(国際登録番号1031242)の商標登録がある。ルブタンの赤い靴底の商標は、識別力がないとして暫定的拒絶を受けた。しかし出願人は、履物全般に赤色を独占しようとはしていないこと、意図は世界中の消費者に認識されているユニークな靴底のデザインを保護することにある、とロシア当局を説得した。

商標保護と意匠保護のどちらの対象にもなり得る最も典型的なトレードドレスは、製品と容器の形状である。両方の権利にとって形状が機能的でないことが共通の要件となる。この2つの知的財産権における共通する特徴と独自の特徴を以下で比較する。

類似点と相違点

出願人:商標制度では、法人または企業活動に従事する自然人のみが商標権を所有することができる。意匠制度は対照的に、出願人には創作者、雇用主、創作者や雇用者の承継人が含まれる。

新規性基準:商標の新規性は、ロシアで先に出願または登録された第三者の商標やロシアで保護を受ける隣接する権利(商号、意匠、商業適合表示など)と比較することによって確立される。この要件は地域の新規性基準と一致している。意匠に関して新規性を確立するために、ロシア特許・商標庁は、世界的な新規性基準に適合する優先日前の利用可能な情報を検索する。

法的保護の範囲:商標保護の範囲は民法1484条で規定されており、商標保護は商標登録証に記載されている標識や指定商品だけでなく、類似の標識や商品にも適用される。最も問題となるのは、標識と商品の類似度となる。ロシア商標法は類似性について一定の基準を規定しているが、これらはすべて主観的な類似判断であり、コモンローのないロシアでは、矛盾した結論がもたらされるす可能性もある。ロシアの商標制度は、著名商標のために特別な規定があり、第三者による同一または類似する商標の使用が消費者を誤認させる可能性があるような場合、著名商標の保護は異なる商品にまで及ぶ。意匠保護の範囲は、基幹的特徴の組合せによって定義される。侵害が疑われる物品が基幹的な特徴をすべて再現しているような場合、または既存のデザインから作成されたものと同様の全体的な印象を消費者に生じさせるような組合せであるような場合は、デザインに新規性がないとみなされる。

不使用:ロシア法の下では、商標は登録後3年間経過すると不使用取消に脆弱になる。商標は、権利者自身、ライセンシーまたは権利者の管理下にある第三者によって使用された場合に、商標が使用されたものとみなされる。したがって、商標の使用は必須要件であり使用しないと権利満了日前に権利を失うこともある。意匠登録によって与えられる法的保護は、未使用のために権利を喪失することはない。ただし、権利付与日から4年間登録意匠が使用されていないか、意匠権者による使用が十分でない場合、意匠ライセンスを拒否された当事者は、強制的な単純(非排他的)ライセンスを請求する訴訟を提起できる。法的保護はロシア民法に基づき、商標登録は出願日から10年間有効となり、更新手数料を支払えば半永久的に権利を継続することができる。一方、意匠は出願日から5年間有効であり、4回まで更新することができる(合計25年間)。意匠権者は、権利を維持するために年金を支払う必要がある。

先使用権:商標に関しては、ロシアの法律は先使用権を規定していない。商標権は登録の結果として権利が発生するが、著名な商標は登録されていなくても保護される。対照的に、意匠制度では、第三者が優先日前にロシア国内において善意で同一の解決方法を考案し、使用していた自然人または法人は、当該解決方法の規模的拡大をしない限り、継続して使用する権利を有する。

譲渡する権利:商標では、権利の全体または部分的な譲渡が可能だが、主たる要件は、譲渡により公衆が混同を起こさないことだ。たとえば、譲渡人の残余商品と譲受人の商標が指定する商品と類似している場合、部分的な譲渡は許可されない。商標制度とは異なり、意匠制度では権利の部分的な譲渡を認めていない。

著作者の権利:著作者の権利は非財産的な人格権であり譲渡することができない。したがって、他人や団体に移転することができる意匠権とは異なり、著作権は意匠が有効である限り変更されない。ロシアの商標制度は創作者の権利を認めていない。

結論

トレードドレスは様々な形態の権利保護の恩恵を受けることができる。それぞれに利点と欠点がある。どちらが望ましいかの問題は、個々に考慮されなければならず、個々の場合の具体的な状況に依存する。ラベルや製品の形状のように、商標と意匠の両方を同時に保護することができるものもある。また、同じものでも商標権と意匠権が対立する可能性もある。そのような対立はその性質と仕様に注意を払うことで適切かつ妥当な権利保護が選択されれば回避することができる。

本文は こちら (CHOOSING THE RIGHT PROTECTION)