2017-07-08

日本:注目裁判例「医心要請ゼミ事件」 ー 工藤莞司弁理士

医学部受験生に対する受験指導等において使用している「医心」、「医の心」、「医心要請ゼミ」の語については、商標的使用ではないとされた事例(「医心要請ゼミ事件」東京地裁平成28年(ワ)第28591号 平成29年4月27日)

事案の概要 本件は、商標「医の心」(登録第5587659号 指定役務 第41類 医学・歯学に関する知識の教授等)及び「医心」商標(登録第5858642号 指定役務 第41類)に係る各商標権を有する原告が、被告においてこれらの文言をパンフレットやウェブサイト上で使用して医学部受験生に対する受験指導等の宣伝広告を行っている行為が上記商標権を侵害する旨主張して、被告に対し、使用の差止め及び損害賠償を求めた事案である。

判 旨「医の心」という語は、従前から医療関係の書籍や番組等で頻繁に用いられている語で、その文言からしてその意味は医師ないし医療の心得といったものであると自然に理解できる。現に、昭和62年発行の心臓外科の権威とされる医師の「医の心」と題する書物(証拠略)では、「医の心」につき、医師の心得ないし医師の心情との意味である旨が詳細に記載されている。また、「医心」という語も、「医の心」を短縮した語であると解され、現に「医術の心得」(広辞苑第6版)といった意味で一般に用いられている。
以上のとおり、被告標章1「医の心」及び同2「医心」は、医学部志望者が医師になるために学力とともに備えるべき心構えや素養を記述的に説明した語であり、被告標章3「医心要請ゼミ」も、医師として必要な心構えや素養の養成を目的とするゼミであることを記述的に説明した語であると認められるから、これらの標章は自他識別機能を有する標識として商標的に使用されているものではなく、したがって、被告のウェブサイト及びパンフレットにおける被告標章1ないし3の使用には、本件各商標権の効力は及ばない(商標法26条1項6号)。

解 説 本件は、商標権侵害訴訟において、被告の抗弁により、被告が医学部受験生に対し受験指導等において使用している「医心」、「医の心」及び「医心要請ゼミ」の各語について、商標的使用か否かが争われたもので、裁判所は、実際の使用例及び広辞苑等から丁寧に証拠調べをした結果、記述的な説明の語と認定して、商標的使用を否定し、商標権の効力が及ばない使用として平成26年改正で追加された商標法26条1項6号を適用して、請求を棄却したものである。裁判所の認定判断は正当であり、広辞苑等辞書登載の語については、その登録や権利行使は、慎重であるべきことを教えた事例といえよう。(工藤 莞司)