2017-12-05

日本:注目裁判例、「豊岡柳事件」- 工藤莞司弁理士

「豊岡柳」と地域団体商標「豊岡杞柳細工」との間においては、出所の混同の虞があるとして、無効審判不成立審決を取り消した事例(知財高裁平成29年(行ケ)第100994号「豊岡柳事件」平成29年10月24日)

事案概要 請求人(原告)が、同人所有の指定商品「豊岡市及び周辺地域で生産された杞柳細工を施したこうり」に係る登録地域団体商標「豊岡杞柳細工」(トヨオカキリュウザイク)を引用して、本件商標(下記図参照)は商標法4条1項11号、同15号、同16号及び同7号違反を理由として請求した無効審判不成立審決について、請求人が知財高裁に対しその取消しを請求した事案である。

判 旨 商標法4条1項15号違反について、裁判所は以下の認定、判断をして、審決を取り消した。

①本件商標は、外観や称呼において引用商標と相違するものの、本件商標からは、豊岡市で生産された柳細工を施した製品という観念も生じ、この観念は引用商標の観念と類似すること、②引用商標を付した原告商品は原告の業務を示すものとして周知性を有し、伝統的工芸品の指定を受け、引用商標が地域団体商標として登録されていること、③本件商標の指定商品は、原告商品と同一又は密接な関連性を有し、原告商品と取引者及び需要者が共通することその他被告の本件商標の使用態様及び需要者の注意力等を総合的に考慮すれば、本件商標を指定商品に使用した場合は、取引者及び需要者に対し、原告「豊岡杞柳細工」の表示を連想させて、当該商品が原告の構成員又は原告との間に緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営む営業主の業務に係る商品と誤信され、商品の出所につき誤認を生じさせるとともに、原告の表示の持つ顧客吸引力へのただ乗り(いわゆるフリーライド)やその希釈化(いわゆるダイリューション)を招くという結果を生じかねない。そうすると、本件商標は、商標法4条1項15号にいう「混同を生ずるおそれがある商標」に当たる。

解 説
 本件判決は、審決が否定した本件商標の登録について商標法4条1項15号違反を認めたものである。「レールデュタン事件判例」(最高裁平成10年(行ヒ)第85号 同12年7月11日 民集54巻6号1848頁)が示した基準に従い広義の混同を認めた。この中で、両商標は観念上類似すると認定している。前掲判例に係る類似は11号の類似とは同じではなく、混同の虞判断の一要素「類似性の程度」としては、この程度のもので足りるということであろう。また、原告商品に係る伝統的工芸品の指定及び引用商標の地域団体商標登録が混同のおそれの判断に考慮された点のみならず、原告商標を付した商品自体の周知性から、引用商標の周知性が考慮された点は注目されよう。そして、原告「豊岡杞柳細工」の表示を連想させるとして、離隔観察を前提としている。

なお、本件商標の登録無効判断の基準時外の登録後の被告の使用が原告商品と誤認させるような使用と認定されているが、被告の反論についてそれを斥けたものである。(工藤莞司)