2018-03-19

日本:注目裁判例、「morimoto事件」- 工藤莞司弁理士

出願商標「morimoto」が「ありふれた氏」として商標法3条1項4号に該当するとされた事例(「morimoto事件」知財高裁平成29年(行ケ)第10110号 平成29年11月27日)

事案概要 
出願人(請求人)は、本願商標「morimoto」(下掲参照)につき登録出願をしたが、拒絶査定を受けたので拒絶査定に対する不服審判(2016-5215)を請求した処、特許庁は商標法3条1項4号に該当するとして不成立審決をしたため、請求人は、知財高裁に対し、審決取消しを求め本件訴えを提起した事案である。

判 旨 
「森本」姓については、広辞苑等の一般的な辞書に掲載されているほか、例えば、①森岡浩編「全国名字大辞典」(東京堂出版)には、関西から、中国・四国地方にかけて集中している名字であり、奈良県の10位を筆頭に13府県でベスト100に入っており、全国でも139番目に多いこと(証拠略)、②姓名分布や名字の出現数のランキングなどを紹介する複数のウェブサイト(証拠略)にも、全国で約2万6660件存在し、141番目に多い氏であるとか、全国で約14万人存在し、145番目に多い氏として紹介されていることを踏まえれば、「森本」の氏が多数存在するありふれた氏といってよい。
本願商標は、ありふれた氏である「森本」を想起、連想させるものといえ、したがって、「ありふれた氏」を表示するものといえる。上記の程度の表示態様(外観)では、いまだ「森本」の氏とは別の称呼観念が生じ得るほどに特徴的であるということはできず、本願商標は、外観上も、ありふれた氏を「普通に用いられる方法」で表示する域を出ないものと評価するのが相当である。

解 説 
本件裁判例では、本願商標は、商標法3条1項4号の「ありふれた氏」か否か、そして「普通に用いられる方法で表示」するものか否かが争われていずれも肯定され、同号該当とした審決が支持されたものである。特に、原告側は、後者については、ローマ字書体と二段書きをもって非該当を主張したが、この程度では特徴的ということはできず、ありふれた氏を「普通に用いられる方法」で表示する域を出ないものとされた。取引上の同種文字表記の実態からも、正当な判断だろう。
「普通に用いられる方法」については、文字の表示方法、すなわちロゴを問題としているもので、昨今、ロゴ化が取引上一般的に行われている現状では、相当程度の特殊な態様でないと、「普通に用いられる方法」を脱したとされるのは難しいと言える。
また原告(請求人・出願人)は、使用による識別力の獲得も争ったが、提出証拠では、本願商標は、全国的な周知性を獲得しているとは認められないとして、3条2項の適用も否定された。