2018-09-03

タイ:特別控訴裁判所における悪意の商標を阻止する斬新な判断 - Tilleke & Gibbins

タイには、第一審を取り扱う裁判所が中央知的財産・国際取引裁判所(IP&IT 裁判所)を含め5つあるが、2016年10月にすべての控訴事件を審理する特別控訴裁判所が設立された。IP関連控訴の審理を担当する特別控訴裁判所の裁判官は、IP訴訟を審理する経験を有しており、知的財産権法およびその手続きに精通しているとされる。特別控訴裁判所の裁判官は、商標の類似性の評価において公正で実務的、時には斬新な判断を提供することができることを最近の事件は示している。 

類似商標に対する異議
2009年6月、あるタイの会社は、ニース分類1類の化学肥料を指定して「MOBIL-AG&Device」商標(出願番号:734360)の出願を行い、2012年9月に公告された。この出願商標は米国の石油メジャー大手のエクソンモービルの登録商標として著名な「ExxonMobil」とよく似ているため、エクソンモービルは2012年12月に商標法第13条(登録官が登録を認めてはならない商標)他に基づいて商標局に異議申立を行った。
エクソンモービルの異議申立は先行するエクソンモービルの登録商標を根拠としたもので、それらは;
登録番号Kor.63198(指定商品:潤滑油、灯油、ガソリン、ディーゼルを含む4類)
登録番号Kor.99756(指定商品:植物や農薬の防腐剤を含む5類)
商標は以下の通り;

商標局の登録官は、出願人の商標とエクソンモービルの商標「MOBIL(登録番号 Kor.63198)とが類似するとしながらも、商品区分が異なるとして異議を認めなかった。その後、エクソンモービルは同決定を不服として審判部に審判請求を行ったが、同様の理由でこれを棄却した。その結果、エクソンモービルは、IP&IT裁判所に上訴した。

IP&IT裁判所の判決
2017年1月、IP&IT裁判所は、両当事者によって提出された証拠と陳述書を審理した後、訴訟を棄却する判決を下した。判断理由は、(1)両当事者の商標は外観と称呼が異なること、(2)両当事者の商品分類が異なっていること、(3)両当事者の指定商品リストは関連していないこと、というもので、商標法第13条に基づく登録できない商標ではないと判じた。この判決に失望したエクソンモービルは、Tilleke&Gibbinsに対しIP&IT裁判所の判決を特別控訴裁判所に上訴するよう指示した。

特別控訴裁判所の判決
2017年10月11日、特別控訴裁判所は、出願人の商標(出願番号:734360)とエクソンモービルの商標(登録番号Kor.99756およびKor.63198)は公衆に混同を生じさせる原因になるほど類似するとの判断を下した。
両当事者の商標は、分類が異なっているとしても、指定する商品が同じ性質を持っているため、出願人の商標(出願番号:734360)は、商標法第13条に基づいて登録することはできないとし、特別控訴裁判所は、IP&IT裁判所の判決を破棄し、商標登録官および審判部の決定を取り下げるよう命じた。
興味深いことに、特別控訴裁判所は、両当事者の標章およびその要素ごとの類似性だけでなく、「MOBIL」という文字の由来についても審理した。特に、この文字はタイ語にはなく外国語であり、外国語がタイ語に対応する意味となるまで使用されていない場合、一般の消費者はそれを認識して覚えておくことに限界がある。重要なことに、「MOBIL」という言葉は辞書にはなく、エクソンモービル側の証人は、この文字が1906年以来商標として使用され、世界中で商標登録されていると証言した。それ故に出願人は、商標の一部に「ExxonMobil」の一部の文字を自分の商標の一部として使用したと結論づけることができる。また、エクソンモービルは、控訴裁判で類似性の問題に加えて、登録商標の著名性を主張し、それをよく知っていた出願人が悪意を持って類似する標章を出願したものだと訴えた。特別控訴裁判所は、著名性や悪意に関する問題について審理したり、判断を下したりすることはなかったが、両商標間の類似性を評価する際にこれらが考慮されたことは明らかである。

この判決は、商標法第13条に基づいて登録を決定する際に、今後の同様な事件で特別控訴裁判所が先行する商標の名声と出願人の悪意を考慮するであろうことを示唆している。この判例は、他人の有名な商標を模倣し、模倣した商標の登録申請を行う悪意のある出願人を阻止するのに役立つはずである。

本文は こちら (A Novel Approach to Evaluating the Similarity of Trademarks in Thailand)