2018-09-18

日本:注目裁判例、「KCP侵害事件」 - 工藤莞司弁理士

侵害訴訟において、当該商標登録に無効理由があるとして、権利行使制限の抗弁が認められた事例(「KCP侵害事件」東京地裁平成29年(ワ)第12058号 平成30年6月28日)

事案の概要
 本件は、本件商標「KCP」につき商標権を有する原告が、被告らに対し、被告標章「KCP」外を付したコンクリートポンプ車等の販売差止め、ウェブページ上の本件商標等の削除及び損害賠償等を求めた事案である。これに対して、被告らは、本件商標の登録は、商標法4条1項7号、同10号、同15号又は同19号に違反したもので、無効理由が存在するとして、商標権行使の制限の抗弁をした(商標法39条・特許法104条の3)。

判 旨
 認定各事実によれば、韓国において、KCP社は、14年程度の比較的長期間にわたり、KCP社商標を同社の製品に付すなどして継続的に使用するとともに、同社製品の販売台数及び売上げを徐々に伸ばし、平成24年以降、コンクリートポンプ車の韓国国内市場において、同社の製品の占有率が1位であった。そうすると、KCP社商標は、本件商標の出願日(平成27年2月18日)当時において、韓国のコンクリート圧送業者等の需要者の間において、KCP社の商品を示すものとして広く認識されていたと認められる。そして、本件商標は、他人の業務に係る商品を表示するものとして韓国国内における需要者の間に広く認識されているKCP社商標と同一または類似の商標であって、不正の目的をもって使用するものであるから、商標法4条1項19号に該当する。したがって、本件商標は、登録無効審判により無効とされるべきものと認められ、原告は、被告らに対し、その権利を行使することができない。

解 説 
 商標権侵害訴訟において、原告が登録した本件商標は4条1項19号に違反したもので無効理由があると認められて、被告の権利行使制限の抗弁が採用されたものである。
 平成12年の最高裁の判例変更により(「キルビー特許事件」最判平成10年(オ)第364号 平成12年4月11日 民集54巻4号1368頁)、侵害訴訟において、無効理由の存在を理由とする権利濫用の抗弁を可能としたが、これを受けた形で、平成16年特許法の改正(平成16年法律120号)で権利行使の制限規定が新設されて、侵害に対する抗弁事由として法定化されて、商標法にも準用された(39条・特許法104条の3)。
 本件事案は、韓国の当該需要者間で周知な他人の商標を、原告が我が国において先取りして、我が国へ進出した被告側が販売活動を開始した途端に権利行使という、時々あるパターンである。原告の不正の目的の存在について、裁判所は、「原告代表者は、KCP社の日本進出を知ると、未だKCP社商標の未登録を奇貨として、同社の日本国内参入を阻止・困難にし、同社に対し本件商標の買い取らせや原告との販売代理店契約の締結の強制などの不正の目的のために、本件商標を登録出願し、登録を受けた」旨認定、判断している。このような登録については、4条1項7号違反が挙げられるが、19号適用が適切である。
 なお、権利行使の制限規定(39条・特許法104条の3)の適用は、無効審判請求に係る除斥期間を経過した商標権については、原則できないとした最高裁判決(「エマックス権利行使制限の抗弁事件」最判平成27年(受)第1876号 平成29年2月28日 民集第71巻2号221頁)がある。