2019-05-07

冒認商標出願について=専門用語は正確に= - 工藤莞司弁理士

 冒認出願とは、保護対象が発明や考案、意匠という創作の保護に関する特許法、実用新案法及び意匠法において存在する出願を指す用語と理解され、異論はない。処が、最近、「冒認商標出願」や「冒認商標」との用語が公的書類においても使用され始めている。

 冒認出願については、現行法では特許法49条7号において、「特許出願人がその発明について特許を受ける権利を有していないとき」との拒絶理由を規定し、この特許出願が冒認出願である(特許庁編「工業所有権法逐条解説」20版218頁)、意匠法17条4号)。そして、無効理由でもある(特許法123条1項6号、実用新案法37条1項5号、意匠法48条1項3号)。

 旧特許法(大正10年法律第96号)において、冒認出願については無効理由として扱われ、そこでは「冒認」の用語が使われていた(57条2号)。当時の解説として、「冒認トハ𦾔刑法(明治13年布告)ニ在リ、・・・自己ニ権利ナキニ拘ラス、自ラ其ノ権利者ト主張スルヲ謂ウト解スベシ」(清瀬一郎「特許法原理」103頁)とされていた。

 現行法では、前掲のように、「特許を受ける権利を有しない者の出願」とともに、「出願後特許を受ける権利を承継しない者の出願となったもの」も、冒認出願とされた。

 いずれにしても、商標法においては、冒認事例が生ずる余地がないことは明らかで、「特許を受ける権利」と「商標登録出願により生じた権利」の違いを持ち出すまでもない。「冒認商標出願」について、「第三者による商標の抜け駆け出願」と括弧書きした使用例も見受けられるが、どのような商標なのかやそれが法律的に違反なのか等曖昧である。また、従前使用されていた「悪意の出願」との異同も定かではない。  現在では、特許法や商標法の関係者の裾野は広く、また国家試験の受験科目で、大学の講義科目でもある。その一方、冒認の語は現行特許法では使われていない上に、辞書への登載もなく、極狭い分野で通ずる専門用語である。分かり易さを求めたとも言えなくもないだろうが、安易な転用は、混乱を生ずる前に見直すべきである。