2020-04-16

日本:注目裁判例、色彩商標「橙色」で商標法第3条該当とした審決が知財高裁でも支持された事例 - 工藤莞司

色彩商標「橙色」について、商標法3条1項6号該当とした審決が知財高裁でも支持された事例
(「橙色色彩商標事件」令和2年3月11日 知財高裁令和元年(行ケ)第10119号)

事 案 原告(出願人・請求人)は、橙色の色彩のみからなる商標(「本願商標」下掲図参照)について、指定役務36類「インターネット上に設置された不動産に関するポータルサイトにおける建物又は土地の情報の提供」として登録出願をしたが拒絶査定を受けて不服審判(2018-3370)の請求をした処、特許庁は商標法3条1項6号該当として不成立審決をしたため、原告は、その審決の取消しを求めて知財高裁に対し提訴した事案である。

判 旨 前記認定のとおり、①本願商標の橙色が特異な色彩であるとはいえないこと、②橙色は、広告やウェブサイトのデザインにおいて、前向きで活力のある印象を与える色彩として一般に利用されており、不動産の売買・・・等の不動産業者のウェブサイトにおいても、ロゴマーク、その他の文字・・・等を装飾する色彩として普通に使用されていること、③原告ウェブサイトにおいても、最上部左に位置する図形と「LIFULL HOME’S」の文字構成のロゴマーク、その他・・・バナー等の色彩として、本願商標の橙色が使用されているが、これらの文字、図形等から分離して本願商標の橙色のみが使用されているとはいえないことを総合すると、需要者においては、本願商標の橙色は、ウェブサイトの文字、アイコンの図形、背景等を装飾する色彩として使用されているものと認識するにとどまり、本願商標の橙色のみが独立して、原告の業務に係る役務を表示するものとして認識するものと認めることはできない。したがって、本願商標は、本願の指定役務との関係において、本来的に自他役務識別力を有しているものと認めることはできない。
 原告は、平成18年から13年間にわたり、原告ウェブサイトにおいて継続して本願商標の橙色を使用してきたこと、原告のテレビCMの実績及び原告の売上実績を勘案しても、本件審決時において、本願商標の橙色のみが独立して、原告の業務に係る役務を表示するものとして、需要者の間に広く認識されていたものと認めることはできないから、本願商標は、その使用により自他役務識別力を獲得したものと認めることできない

コメント 本件裁判例は、平成27年から登録が認められた新しいタイプの商標の色彩商標に係るもので、前回の位置商標に続く知財高裁の判断例である。「色彩のみからなる商標」は、図形等と色彩が結合したものではなく、「輪郭のない色彩」であり、色彩自体が登録対象であることが特徴である。
 本願商標は橙色の単色であるため、自他役務の識別力がないとして、審決は3条1項6号該当を理由に拒絶したもので、知財高裁も、審決を是認、維持したものである。原告は、使用による識別力の獲得をも主張・立証したが、この点も否定された。
 このような色彩は、世間一般のみならず、取引上も使用されるもので、一般的には特定者の商品や役務を識別する機能は持ち得ない。本件事案でも、様々な場面で多くの者に使用されていると認定されている。このようなことから、単色に係る本願商標の識別性の否定及び使用による識別力の獲得の否定は妥当な判断と思われる。また、色彩のみからなる商標については、3条1項3号等の趣旨の一つ、一私人に対する権利付与は独占適応性の観点からも問題がある。
 実務例が見えない中で、『「動き商標」「色彩のみからなる商標」の審査動向』について、他の新しいタイプの商標と共に最近のパテント誌(Vol.73 No.2 52頁以下)に掲載されている。その中に単色色彩の登録例は見当たらない。