2020-06-12

日本:注目裁判例、ホテルの名称について、商標権侵害が問われた事例 - 工藤莞司

(「SAKURAHOTEL事件」東京地裁平成30年(ワ)第15781号 令和2年2月20日) 

 事案の概要 原告(商標権者)は42類「宿泊施設の提供」について登録商標「サクラホテル」(第3103765号・本件商標)を有する処、原告は、被告がホテルを営業するに当たり使用している標章(下掲外)は、本件商標権を侵害するとして、被告に対し、被告各標章の使用の差止めを求め、また、損害賠償金等の支払を求めた事案である。(不正競争防止法に係る請求分は棄却で、省略)

 判 旨 本件商標と被告使用標章の対比 本件商標は、カタカナの「サクラホテル」との外観を有し、「サクラホテル」との称呼、及び桜の花をそのイメージとする宿泊施設という観念が生ずる。
 被告各標章は、桜の花びらのマーク及び「桜」の漢字、横書きの「SAKURA」、横書きの「HOTEL」の各文字をこの順番に縦に並べた外観を有し、「サクラホテル」との称呼、及び桜の花をそのイメージとする宿泊施設という観念が生ずる。
本件商標と被告使用の各標章は、称呼及び観念が同一ないし極めて類似しているといえる。一方で、本件商標と被告使用の各標章はいずれも外観において異なるものの、被告使用標章は「サクラホテル」を漢字やローマ字などで表記したものの組合せであるか、それらに加えて桜の花びらのマークなどを組み合わせたものにすぎないか ら、その取引の実情に照らし、日本人を始めとする需要者にとって、両者の外観の差異は大きいものとはいえないというべきであり、両者が称呼及び観念において同一ないし極めて類似していることに照らせば、本件商標と被告使用標章は類似しているというべきである。
 被告の抗弁(商標法39条・特許法104条の3)商標法3条1項6号該当性 被告は、「さくら」、「桜」などの名称を使用したホテルは多数存在し、本件商標登録の査定時にも多数存在したはずであるから、本件商標には識別力がないと主張する。しかし、本件において、本件商標登録の査定時に、「さくら」や「桜」の名称を使用したホテルがどの程度存在したか・・・その他、本件商標に識別力がないことを裏付けるに足りる的確な証拠はない。本件商標登録は無効審判により無効にされるべきものであるとの旨の被告の主張はいずれも採用することはできない。
 損害額  被告の本件商標権の侵害につき、商標法38条2項によって推定される原告の損害は、被告の限界利益である3072万4000円の1割に相当すると認められる。
 原告の請求は、被告使用標章の使用の差止め、並びに損害賠償金337万2400円及び遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。

コメント 本件事案では、サービスマークであるホテルの名称の使用について、商標権侵害が問われたものである。商標の類否については争われず、権利行使制限の抗弁や損害賠償額について争われ、前者については、「さくらホテル」等の使用例については立証されなかったようで採用されなかったが、原告が本件商標登録は除斥期間経過済みと再抗弁したにもかかわらずの判断で、疑問である(「エマックス権利行使制限の抗弁事件」最高裁平成27年(受)第1876号 平成29年2月28日 民事判例集71巻2号221頁)。また、賠償額は商標法38条2項が適用され減額されたが弁護士費用を含み認容されている。
 原告は、サービスマーク登録制度施行時に登録を受けているのに対し、被告は事前調査もなく使用開始したようで、この差が本件事件の結果にも表れたように思われる。被告にはホテルの名称が商標法の保護対象との認識が薄かったのであろう。サービスマーク登録開始以来、30年近くになるが、業種等によっては、このような実態なのであろうか。