2021-02-01

工藤莞司の注目裁判:商標「AZURE」より生ずる称呼について争われた事例

(「AZURE」事件 令和2年12月23日 知財高裁令和2年(行ケ)第10086号)

事案の概要 
原告(出願人・審判請求人)は、「AZURE」を標準文字で表し、3類「せっけん類、歯磨き、化粧品、香料、薫料」以下、5類、35類、44類に係る商品ないし役務を指定し登録出願をした処、拒絶査定を受けて拒絶査定不服審判(2020-1707)を請求したが、特許庁は不成立の審決をしたため、本件審決の取消しを求めて本件訴訟を提起した事案である。拒絶理由は4条1項11号該当で、引用商標は、「AZULE」を標準文字で表した登録商標(登録第5454302号)で、44類「医療情報の提供、医療用機械器具の貸与」を指定役務等とするものである。

判 旨 
本願商標は、指定商品・指定役務の分野において、特定の意味合いを有する語として 知られているとの事情も見いだせない。そうすると、需要者から、一種の造語 として看取されることもあるものといえる。それ自体あまり知られていない欧文字からなる商標は、一般的には、我が国において広く親しまれている英語風又はローマ字風の読み方に倣って称呼されるとみるのが自然であるから、本願商標は、英語風の読み方に倣って「アジュア」の称呼を生ずるほか、ローマ字風の読み方に倣って「アズレ」の称呼をも生ずると認めるのが相当である。
本願商標と引用商標とは、観念において比較できないとしても、外観において類似し、「アズレ」の称呼を共通にするものであり、これらを総合すれば、互いに相紛れるおそれのある類似の商標というべきである。

コメント 
本件事案では、造語的な欧文字商標同士の類否について、称呼を中心として争われた事案で、本願商標の称呼について審決認定の当否が問われたものである。原告は、『本願商標は、英語の読み方に倣うと、語尾に「ure」を有する英単語の「pure(ピュア)」、「cure(キュア)」、「secure(セキュア)」等と同様に「アジュア」の称呼 か「アジュール」の称呼を生ずるのが自然である』と主張したが、本件裁判例では、その主張を入れた一方で、「アズレ」の称呼をも生ずるとしたもので、我が国で知られていない英単語については、ローマ字風読みからの称呼認定は実務上普通に行われていることで、妥当な認定である(拙著「商標審査基準の解説」初版平成3年、121頁外)。
 そして、自然に生ずる称呼が二以上生ずる商標については、その一つを類否判断要素の一つとして類否を判断することは審査、審判の実務で、これを知財高裁も踏襲し、確認したものと言える。