2021-03-01

工藤莞司の注目裁判:長唄囃子「望月流」の芸名について不正競争防止法2条1項1号で争われた事例

(「長唄望月流芸名事件」令和2年3月25日 東京地裁平成30年(ワ)第27155号、控訴棄却 令和3年1月26日 知財高裁令和2年(ネ)第10030号)

事案の概要 長唄囃子の普及等の事業活動を行う原告が、「望月」の名称は望月流宗家家元であり「十二代目望月太左衛門」の芸名(以下「太左衛門」という。)を有する原告の営業表示として周知であり、被告らが長唄囃子事業活動において、原告の営業表示と同一の「望月」の名称を使用する行為は不正競争防止法2条1項1号に該当する旨主張して、 被告らに対し、長唄囃子における芸名「望月」の名称使用の差止めを求めた事案である。

判 旨 太左衛門は、代々、望月流の家元を称し、演奏会等に出演して長唄囃子を演奏する活動等を行い、昭和41年頃には、「現代・邦楽名鑑(二)」において、望月流一門全体の代表家元として紹介されるに至り、かつ、実際に昭和48年及びそれ以降に太左衛門が望月流一門全体の代表家元であることを示す行動をとってきたほか、平成5年6月・・・には、太左衛門が望月流の家元である旨が新聞記事に紹介され、各演奏会において、太左衛門が望月流の家元である旨を含む各挨拶がプログラム等に掲載される状況にあった。それ以降も、原告は、自らが望月流一門全体の代表家元であることを示す行動をとり、新聞記事等においても同様の紹介がされたほか、長唄協会も同様の認識を有しているということができる。・・・遅くとも原告が十二代目太左衛門を襲名した後である平成6年6月までには、太左衛門が、望月流一門全体の家元として本件需要者の間で広く認識されるに至り、それ以降も現在に至るまで、本件需要者の間で広く同様に認識されていたと認めるのが相当である。
 原告が家元を務める「望月流」においては、家元が門弟に対して名取名を認許するところ、・・・名取に取り立てられた者は、以後自らの活動を行うにつきこの「望月」の姓を冠した名取名を表示し使用することが許されることに照らすと、望月流の名取名における「望月」姓は、・・・個人の芸名としての性格を有するだけではなく、同時に、家元による望月流の営業活動を示すものということができるから、「望月」の表示は、望月流の家元としての原告の営業表示に該当するというべきである。
 原告から「望月」姓を冠した名取名の認許を受けていないから、「望月」の表示は、被告らにとって他人の周知な営業表示に該当するというべきである。

コメント 長唄囃子家元の名取に係る芸名についての不正競争防止法2条1項1号事件である。家元下の高弟が認許した各被告使用の芸名について、原告家元から芸名使用禁止が求められて、「望月」の表示は望月流の家元原告の営業表示に該当するとして、認容された。認定事実では、芸名の認許は家元に限られて、被告らに対してはその認許がないというのであるから、被告らの使用は他人たる原告名称の無断使用に該当して、使用禁止はやむを得ない。
 時折、舞踊や華流界等において家元下の名称使用について争われ、この種文化事業は営業ではないが、経済上の一定の収支決算の上の事業であれば、不正競争防止法の適用については、定着している。
家元制度では、個人的色彩が強く、組織化が行われていないため、特に家元の代替わりの際などに、しばしばこの種の問題が生じている。そうして、不正競争防止法事件になるようである。最近では、「花柳流花柳会事件」(平成24年6月29日 東京地裁平成23年(ワ)第18147号)がある。