2022-01-11

工藤莞司の注目裁判:引用商標の周知著名性を認めながら商標法4条1項11号、同15号該当のいずれも否定した事例

「pum’s 事件令和3年10月14日 知財高裁令和3年(行ケ)第10071号)

事案の概要
 原告(審判請求人)は、被告(商標権者・審判被請求人)が有する「pum’s」(下掲左参照)に係る登録商標(第6123121号「本件商標」)の登録に対し、「pumA」(下掲右参照)に係る登録1716371号外を引用して商標法4条1項11号及び同15号違反を理由として無効審判(2020-890010)を請求した処、特許庁が不成立審決をしたため、原告は知財高裁に対し、本件取消訴訟を提起した事案である。

判 旨
(商標法4条1項11号)引用商標や引用商標と動物「ピューマ」の図柄を結合させた商標は、ゴルフ用シューズ等の靴、ゴルフ用シャツ等のウェア、帽子及びバッグに2005年頃から現在に至るまで継続して使用されており、同社の業務に係るスポーツ関連の商品について、相当程度の出荷数量及び売上高又は出荷金額があり、そうすると、引用商標は、本件商標の出願時及び査定時において、原告の業務に係るスポーツ関連の商品を表すものとして需要者の間に広く認識されているものと認められる。
 本件商標と引用商標は、語頭を含めた「pum (PUm)」の文字を共通にするが、 末尾において本件商標が小文字の「s」であるのに引用商標が大文字の 「A」であるという文字の相違、アポストロフィの有無、下線のように表されたものの有無、書体が斜体であるか否かの点等において明らかに異なり、外観においては、相紛れるおそれはない。本件商標と引用商標とは、外観、称呼及び観念のいずれに おいても相紛れるおそれがなく、類似しないものと認められる。
(商標法4条1項15号)本件商標と引用商標とは、引用商標の周知著名性を勘案しても、外観、称呼及び観念のいずれにおいても非類似の商標であって、その類似性は極めて低いというべきであるから、本件商標の指定商品「運動用特 殊衣服、運動用特殊靴」と、原告の業務に係る商品との間の関連性や、取引者や需要者の共通性が高く、また、いずれも一般消費者も需要者とすることを考慮しても、本件商標に接する取引者及び需要者が、原告又は引用商標を連想又は想起することはないというべきである。

コメント 
 本件判決は、引用商標の周知著名性を認定しながらも、商標法4条1項11号、同15号該当を否定した審決と同じ判断をしたものである。本件商標と引用商標の類似や類似性が認められないからである。両商標においては、構成アルファベットの三文字は共通であるが全体として外観上類似しないとの判断は正当で、またこの程度の共通性では、混同の虞を肯定するには不十分と言える。引用商標については、いわゆるパロディ事案でも15号の適用例はあるが(「KUMA事件」平成25年6月27日 知財高判平成24年(行ケ)第10454号)、本件とは明らかに異なる事案である。