2022-02-24

メタバースがもたらすファッションブランドの知的財産権への影響 - Marks & Clerk

メタバース(Metaverse)をご存じだろうか。この新しい仮想空間で自社の知的財産を確実に保護するために、ファッションブランドは何をすべきだろうか。 

メタバースとは、コンピュータやコンピュータネットワークの中に構築された環境で利用者間の交流ができ、NFTという形でデジタルアイテムを購入することができる仮想空間だ。この仮想空間は世界を席巻し、その結果、ファッションの世界でも知的財産権への影響に関して多くの疑問が生じることになった。

メタバースがファッション界に与える影響を理解するためには、NFTが何であるかを理解することが重要だ。
NFTは「non-fungible token(非代替性トークン)」の略で、ブロックチェーン技術を使って所有権の証明を確立するデジタル台帳に保存された、ユニークで代替不可能なデータの単位だ。これは本質的に「アイテム」がオリジナルであることを特定する情報をNFTが保持していることを意味している。そのため、NFTは、衣服やアクセサリーなどの有形ファッションアイテムと同様に価値を持つことができ、購入せずに単にコピーされることはない。 

知的財産を考慮すると、NFTが収入を得る大きな可能性を持っていることは明らかで、知的財産はすでに現実世界で価値あるものだが、多くのファッションブランドは仮想資産の保護にも目を向け始めている。

ファッションはすでにメタバースで大きな役割を担っている。アジア最大のメタバース・プラットフォームであるZEPETO(ゼペット)は、立ち上げから3年でほぼ2億5千万人のユーザーを獲得した。彼らは、デジタル衣服やファッションアクセサリーの形でNFTをデザインし、販売し、ユーザーはそれを自分のオンラインアバター用に購入するのだ。これらのインフルエンサーの中には、仮想の服で既に6桁の収入を得ている人もいるくらいだから、仮想世界でのファッションに対するユーザーの関心の高さがうかがえる。

ラルフローレンやグッチといった高級ブランドでさえ、すでにデジタル衣服を販売し、Zepetoのアバターに搭載して参加している。9月には、高級ファッションNFT電子市場のUNXDがドルチェ&ガッバーナとコラボして独自のNFTコレクション「Collezione Genesi(ジェネシス・コレクション)」を発表し、現在までに約565万ドルの売上を記録している。

仮想ファッションの需要は、「手の届く」価格帯からも生まれているようだ。デザイナーズアイテムのNFTは、価値を保ちつつ、現実世界のものよりもかなり安い傾向にある。そのため、より身近な存在となっている。メタバースでは、ずっと欲しかったけど現実には買えないグッチのハンドバッグを手に入れることができる。

NFTに参加しているのは、高級ブランドだけではない。この6週間で、Gap、BoohooMan、H&Mといったハイストリートブランドが、それぞれNFTコレクションを発表している。高級NFTは「手頃な」価格設定だが、すべてのユーザーがこれらのアイテムを購入できるわけではなく、そのためハイストリートブランドは、ファッションへの愛着を表現したいがために、リーズナブルな価格帯でユーザーに市場を開放しているのだ。その結果、多くのユーザーがメタバースに参加することで、新しいファッションベースのNFTを生み出すバーチャルインフルエンサーが増加すると思われる。

メタバースとNFTの新しい問題点として、誰でも自宅でNFTを作成できることが挙げられる。そのため、ファッション業界では、有名なデザインがコピーされる虞がある。実際の模倣品を製造するよりもはるかに少ない労力と資金で出来るからだ。

商標紛争において、デジタル衣服が現実世界の衣料品と十分に類似するとして、デジタル衣服にも商標保護が及ぶと主張するブランドが現れるかもしれない。現在、仮想資産を特に保護するために商標保護を広げようとするファッションブランドも増えている。

例えば、2021年10月、ナイキはスローガン「Just Do It」、スウッシュロゴ、ジャンプマンロゴ、「Air Jordan」等の有名な商標を仮想スニーカーや仮想アパレル向けに新たに商標出願し、ラルフローレンは、米国で仮想の衣類や仮想のアクセサリーを扱う便益の提供や、仮想環境で使用するオンライン上の衣類やアクセサリーなどの商標登録を申請した。

メタバースの急速な拡大に伴い、NFTの衣料品ブームがどのように展開するか、また、ファッションブランドがこれらのデジタル資産の商標保護についてどのような選択をするかは興味深いところだが、後々起こりうる紛争や「バーチャル模倣」を避けるために、ブランドは今、商標保護を仮想空間にも拡大することを積極的に検討することが重要だと思われる。

本文は こちら (The Metaverse and the implications for Intellectual Property rights for fashion brands)