2022-03-01

工藤莞司の注目裁判:「hihachi」と「HITACHI」との商標間において、出所の混同を生ずるおそれを認めた事例

「hihachi事件」令和4年1月27日 知財高裁令和3年(行ケ)第10092号)

事案の概要 
 原告(商標権者)が有する「hihachi」を標準文字で表し、指定商品を11類「業務用暖冷房装置、家庭用電気火鉢、家庭用電熱用品類、家庭用加熱器(電気式のものを除く。)、・・・」(本件商標 登録第6280832号)に対し、被告補助参加人(異議申立人)は異議申立てをした(異議2020-900280)処、特許庁は、本件商標は被告補助参加人が有する引用商標「HITACHI」との関係において、他人の業務に係る商品と混同を生ずるおそれがある商標であり、商標法4条1項15号に該当するとして登録を取り消すべきとする決定をしたため、原告が知財高裁に対して、異議決定の取消しを求めた事案である。

判 旨 
 引用商標の周知著名性の程度 証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば、被告補助参加人は、明治43年に創業した大手総合電機メーカーであり、現在は800社を超えるグループ会社と共に多岐にわたる事業を展開していること、被告補助参加人及びそのグループ会社は、遅くとも1950年代から現在に至るまでの間、各種の商品及び役務等に引用商標を継続的に使用してきたものであり、引用商標は、被告補助参加人及びそのグループ会社の業務に係るブランド又はハウスマークとして定着していることが認められる。
 本件商標と引用商標との類似性の程度 (1) 外観について、本件商標及び引用商標は、いずれも標準文字7文字のアルファベットからなるもので、「h」と「T」とで異なる3文字目を除いては、同じアルファベットが同じ順序でつづられており、使用文字及びそのつづりが近似している。以上の事情を考慮すると、本件商標及び引用商標の外観は、互いに相紛らわしいものである。(2) 称呼については、比較的印象に残りやすいといえる語頭の「ヒ」の音及び語尾の「チ」の音が共通する。そして、異なる部分2音目の「ハ」の音及び「タ」の音は、いずれも母音を「a」とする点で共通する上、通常はそれほど強く発音されない2音目であることからすれば、本件商標及び引用商標の称呼を明確に区別することが困難な場合もあるというべきである。本件商標及び引用商標の称呼は、互いに相紛らわしいものである。
 出所混同が生ずるおそれの有無 本件商標の指定商品の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として、前記検討した事情を総合的に考慮すると、注意力がそれほど高いとはいえない一般消費者が、被告補助参加人及びそのグループ会社の業務に係る商品及び役務を表示するものとして極めて高い周知著名性を有する引用商標に相当程度類似し、取り扱う商品も密接に関連する本件商標が付された商品に接した場合には、当該商品が被告補助参加人及びそのグルー プ会社の業務に係る商品であると混同するおそれがあるというべきである。

コメント 
 本件判決は、商標法4条1項15号事案で、レール・デュタン判例(最高裁平成10年(行ヒ)第85号 平成12年7月11日)に従い認定、判断し出所の混同の虞を認めたものである。引用商標「HITACHI」の周知著名性については、異論はないだろう。類似性では、大文字と小文字の差異が問題とされたが、「商標の外観上の類否を判断するに当たっては、時と場所を異にして離隔的に観察する方法によるべき」として、原告主張は退けられた。特許庁は、引用商標権者から異議申立てを受けて審理して、商標法4条1項15号該当を認めたものである。職権審査等では困難な事案であろうか。検索データを中心とする机上の認定、判断の弱点とも見える。引用商標権者は、異議申立てをし、しかも本件決定取消訴訟にも被告(特許庁長官)側へ補助参加をして、姿勢が明確である。