2018-09-04

タイ:パナソニックが勝利したパッシングオフ事件 - Tilleke & Gibbins

タイの商標法はパッシングオフからの保護を認めているが、未登録商標の権利を守るための訴訟を提起することには依然として課題がある。
2つの登録商標が異なる場合、両当事者の製品パッケージングデザインの商標が混同するほど類似する状況では、裁判所は2つの標章の単純比較だけで、その類似性を消費者が混同する虞はないと判断することがある。
最近、タイの最高裁判所は、画期的ともいえる商標権侵害訴訟でパッシングオフを根拠とした重要な判決を下した。原告のパナソニックは、世界中で様々な商標登録を行っているが、中でも目を引くのは、「PANASONIC」商標そのものであろう。パナソニックは、1985年にニース分類9類のマンガン電池とアルカリ電池を指定してタイで商標登録した。パナソニックは、消費者がすぐにパナソニック製であると認識できるように包装ラベルや電池に独特な色を使用するなど多大な努力を行っていた。 
約5年前、あるタイの製造会社(被告)が自社の商標でパナソニック製のものと類似した異なるタイプのバッテリーを製造している、ことが発見された。被告の電池は、パナソニックの電池の色とよく似ていて、文字部分がパナソニックの包装とほぼ同じ位置に配置されていた。友好的な和解の試みに失敗した後、パナソニックは商標権侵害とパッシングオフを理由に被告に対して民事訴訟を提起した。

IP&IT裁判所の判決
中央知的財産・国際取引裁判所(IP&IT 裁判所)において、パナソニック製の包装の外観はタイの一般消費者に即座に認識され他の電池メーカーの包装と区別できると、パナソニックは主張した。またその主張を裏付けるために、パナソニックは包装の外観と他の電池メーカーの包装の外観を比較したアンケート調査を実施した。調査結果は、平均的な消費者が、パナソニックの商標を見なくてもパナソニックの包装を容易に認識することができ、消費者が被告の包装を見るとパナソニック製と混同する虞があることを示していたが、残念なことに、これらの調査結果が裁判所を説得する証拠にはならなかった。パナソニック製の包装の色、サイズ、文字配列を模倣する被告の悪意を考慮することなく、裁判所は商標そのものだけを判断材料としたため、被告の電池は称呼と全体的な外観を比較して区別できると判断した。
パナソニックは、被告が類似する包装、ラベル、および色を被告の製品に使用し、パナソニックの幅広い名声から恩恵を受けているという被告の悪意についてIP&IT裁判所が法的な論点を十分に審理しなかったと主張し、裁判所の決定を不服として最高裁判所に上訴した。

最高裁判所の判決
最高裁判所は、IP&IT裁判所が両登録商標の称呼と文字のローマ字形状を考慮して両商標が非類似であるという判断をしたことを支持したが、IP&IT裁判所が根拠とした他のほとんどの理由を否定した。特に被告がパナソニックのものと類似する包装、ラベル、製品デザインを使用することによって悪意のある行為をし、それによってパナソニックの未登録の商標権が侵害されたことに関する判断を誤ったと結論付けた。
最高裁判所は、商標が商品や包装に使用される方法を判断することによる被告の悪意の意図の重大さを強調した。最高裁判所は、問題の登録商標が「PANASONIC」商標の外観や称呼と混同するほど類似していなくても、パナソニックの電池の特徴と被告の包装と電池の特徴を比較して2社の製品は類似している、と判断した。
配色に関して、最高裁判所はIP&IT裁判所の判断と異なる考えを示した。色は誰でも自由に使用できる共通の機能だが、色、文字、画像の配置と共に特定の色の組合せ(緑や銀、黒と銀、赤、白、黒と黄など)によりパナソニックの製品が他人の製品と異なることを示すビジュアルデザインや模様となりえるとし、さらに最高裁判所は、パナソニック製の電池と類似する被告の電池と包装の外観は、関連する消費者をパナソニック製であると欺くために電池を指定した登録商標を使用するという被告の悪質な意図が明確に反映されたもので、このような不法行為はパナソニックに損害を与える結果となり違法であるとし、被告がパナソニックと類似する色彩と模様を持つ製品デザインと包装の使用を差し止め、販売してはならないと判じた。さらに、被告に対してパナソニックの弁護士費用、裁判費用を含め補償的損害賠償の支払いを命じた。 

結論
この事件における商標権者の勝利は、未登録商標も含めて商標権侵害が商標そのものだけでなく、商標権者の独創的な商品デザインや包装を疑惑の侵害者が模倣するために商標を使用する方法について判断をする上での貴重な教訓となるであろう。また、この最高裁判所判決は、同様の問題に直面しているブランドオーナーにとって、ブランドオーナーの独創的な製品デザインや包装を模倣する第三者から身を守るための指針となることが立証された。

本文は こちら (Panasonic Wins Passing Off Case for Packaging and Product Designs)