2019-08-01

EU:「ゲーテなんてクソくらえ」、公共の秩序と道徳規範に関する判断 - Novagraaf

コメディ映画「Fack juGöthe(ゲーテなんてクソくらえ)」の成功で、制作会社は映画のタイトルを文字商標として登録しようとした。しかし、EUIPOはその商標の登録を拒絶し、EUの一般裁判所もその決定を支持した。Casper Hemelrijkは、EUとベネルクスにおける公共の秩序と道徳規範の審査について検証する。

ドイツの映画製作配給会社のコンスタンティン・フィルムは、2015年に映画のタイトルを文字商標として登録しようとしたが、タイトル「Fack juGöthe」は、ドイツの文豪ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテを侮辱しているとして、EUIPO(欧州連合知的財産庁)は、公共の秩序又は一般に是認された道徳規範に反するものという理由で商標登録を拒絶した。これはどのように決まったのだろうか。

管轄による違い
以前にも指摘したが、EUIPOは公共の秩序に関する考え方でUSPTO(米国特許商標庁)と異なっている。米国の最高裁判所が最近の判決で「不道徳」の商標についての判決を下したことを受けて、この違いが大きくなる可能性が高くなった。
それはまた、ベネルクスのような個別の管轄においても異なる考え方をしている(下記参照)。EUの考え方はより厳格で、その理由の1つは、欧州商標(EUTM)によってカバーされている地理的領域によるものだ。28の加盟国のうちの1つの国の一般公衆が商標に異議を唱えれば、EU全体で否定されなければならない。その良い例は、ルーマニア語でその意味を知るまでは問題がないように見えた「CURVE」のEUTM出願の拒絶である。

EUIPOの考え方
EUIPOは、公共の秩序又は一般に是認された道徳規範を理由として広範囲に商標登録を拒絶している。性的な意味を含む商標同様に、挑発的(provoking)、攻撃的(offensive)、猥褻(vulgar)と見なされる商標登録を拒絶することができるし、今回の「FACK JUGÖTHE」のような悪態をつく言葉や、マフィアを意味するような犯罪に関わる言葉も拒絶する。また、政治的な意味を持つとして拒絶される言葉には、「ETA」、「IRA」、「ATATURK」、「BIN LADIN」などがある。
また、最近の拒絶例では、「MAK TEA」がスラブ語でアヘン含むケシの実を説明する言葉であるとして、EUIPOは商標として登録を認めなかった。また、「KRITIKAL BILBO」も特定の大麻製品の商標として登録を拒絶した。

ベネルクスの考え方
EUIPOとは対照的に、ベネルクス知的所有権庁(BOIP)は、商標の登録を拒絶するためにこの根拠を適用することは殆どなく、実際の拒絶例も殆どない。BOIPが拒絶のためにこの根拠をめったに使わない理由は、ベネルクス諸国が表現の自由を重視しており、米国の最高裁判所の最近の判決にも同調しているからだ。
但し、拒絶例がないわけではない。例えば、1996年の「TRIX IS NIX」商標の出願は、ベアトリクス元オランダ女王を侮辱しているという理由で拒絶された。オランダで女王の品位を貶めることは違法だ。その他の拒絶例には、腕にかぎ十字を付けたガーデン・ノーム(庭に飾る陶器の人形)の図形商標のようにヒトラーやナチズムを表す商標がある。このような商標が表現の自由を逸脱していることは疑いようがない。
しかしながら、一般的な原則として、BOIPは道徳的な分別には近づかず、明らかに行き過ぎている商標の登録を拒絶するためにこの理由を留保しているようだ。

「FACK JUGÖTHE(ゲーテなんてクソくらえ)」に戻って
EUIPOが商標登録を拒絶した後、コンスタンティン・フィルムは、その決定を不服としてEUIPOの審判部に、その後EUの一般裁判所に上訴した。そして最後の手段として、コンスタンティン・フィルムはEU司法裁判所(CJEU)に向かった。
CJEUの係属事件では、法務官(advocate general)が、事件に関して公平で独立した意見を述べる事が出来る。この意見に拘束力はないが、大きな影響力があり、判事がこの意見に従う判決を下すことも多い。本事件でのBobek法務官の意見は、一般裁判所の決定に反し、コンスタンティン・フィルムに対して有利なものとなった。商標法における表現の自由の問題は極めて重要なものなのだ。 

コンスタンティン・フィルムは、これまで表現の自由が考慮されなかったと主張したが、実際は、商標法の下で表現の自由を保護する規定がないことが具体的に議論されていた。Bobek法務官は、表現の自由の保護は商標法の目的ではないかもしれないが、人権法によって保護されているため、人としての基本的な権利であり、表現の自由をまったく考慮しないという決定において、EUIPOと一般裁判所の両方が誤ったと指摘した。

公共の秩序と一般に是認された道徳規範
公共の秩序と一般に是認された道徳規範では明確な違いがある。Bobek法務官は、両者の主な違いは基準と価値観にあると述べている。公共の秩序は公的な機関によって決められた基準と価値観によるが、道徳規範の規準は社会的な判断によって決まる。これらの根拠が重なる可能性はあるが、それらは独自に立証されなければならない。
従って、公共の秩序に反するかは客観的に決めることができ、公共の秩序を理由とする商標の拒絶は、法律や具体的な政策または公式な声明を参考にして決定されるべきもので、それには、法的確実性が担保されなければならない。
道徳的見地から、映画のタイトルが不道徳だという議論は何もなく、この映画はドイツでとても人気が出た。このことは、本標章が一般に是認された道徳の規範内であることを示している。

本件に関して最終判断を下すのはCJEUであり、その判断次第では、EUIPOは、公共の秩序と一般に是認された道徳規範を評価するためのアプローチの再考を求められるかもしれない。CJEUが法務官の意見に基づいた裁定をするのか、それともEUIPOとEU一般裁判所を支持する判断を下すのか興味深く待つことになった。

本文は こちら (Public policy, morality and Johann Wolfgang von Goethe)