2つの商標が混同を起こすほど類似しているかを検討するとき、商標の登録機関と裁判所は商標が指定する商品・役務の関連分野における「平均的消費者」の視点から当該商標を検討する。
「平均的消費者」とは、合理的に十分情報が得られ、合理的に注意深く、よく観察する人と考えられるが、実際には2つの商標を直接比較する機会はほとんどないため、当該商標に関する不確かな記憶に頼ることになる。さらに「平均的消費者」の注意力は問題となる商品・役務分野によって異なるものだ。一般消費財についての「平均的消費者」とは以上のようなものだ。しかし、最高級で高価格な商品のように特別なものを考えたとき、「平均的消費者」はより注意力が高く、類似するかどうかで混乱をあまり起こさない人と考えることができる。
最近EUの一般裁判所で争われた事案では「平均的消費者」をどう考えるかが議論された。英国のSpeciality Drinks Ltd(以降、Speciality社)はEU商標として “CLAN” を指定商品、ウィスキーで商標出願したところ、登録商標 “Clan McGregor” を所有するウィリアム・グラント&サンズ社から異議を申立てられた。両商標とも同一要素 “CLAN” を持つことで異議が認められ、Speciality社はEUの一般裁判所に控訴した。
Speciality社の申立ては、類似に関する審判は、ウィスキーが他の飲み物とは異なり消費者が「いわゆる通」だという「平均的消費者」の観点を見落としたとして、ウィスキーの消費者はこの分野で一般よりはるかに高い注意力を持っているので、“CLAN” は先登録商標 “Clan McGregor” と混同を起こさない、いうものだった。一般裁判所は、ウィスキーはマス・マーケット商品であり、その消費者は通常の注意力を持つ「平均的消費者」であるとして、Speciality社を支持しなかった。裁判所は「いわゆる通」について、一般より高い注意力を持つ消費者とはレアで高価なウィスキーのコレクターや消費者のように、特別な分野の知識を有する消費者にのみ魅力的な商品と見られる場合に限られるであろうと判じた。
裁判所の判断は、当該商品が一般公衆や「平均的消費者」ではなく高い注意力を持つ消費者に向けたものであることを証明できないのであれば、マス・マーケットで売買される一般的な分野に属する商品に対して高い注意力が必要ということはできないというものである。
本文は こちら (The average consumer of whisky – the EU’s General Court considers)