定食屋などで、商標登録証を飾ってあるお店がたまにあるが、なんなんだ。飲食店営業許可書などと一緒に、額縁に入れてこれ見よがしに展示されていることもある。これはやはり、店主の「ウチは然るべき許認可を受けてやっていますよ」というPRの意図があるのだろう。あるいは、商標登録ができたことについての、店主の嬉しさの発露なのかもしれない。「どうだい! ウチは商標登録済みでさぁ!」ということなのである。
一方、知財実務をやっていると、登録証には実利がほとんどないことに気付かされる。登録証をもらったあとに異議申立などで権利が失効しても、登録証が没収されることはなく、有効期限が書いてあるわけでもないから、実は商標登録済みであることを証明する手立てにもならない。一部の新興国では、当局の権利ステータスの管理体制や、データベースが未整備なせいで、登録証の存在が権利を保有していることの事実上の証明手段になっているところもあるが、日本はそのような状況にはない。
そんな事実に気づかされて以来、商標登録証が届いたときの僕の感情といえば、ピザ屋のチラシがポストに投函されたときよりも平坦である。せめて、次の出願手数料が1000円OFFになるクーポンとかつけてくれないか? ピリピリって切り取って、特許印紙の代わりに貼るわけよ。
しかし、今のところクーポンがついてくる気配はなく、代わりに特許庁長官の署名がついた立派な書式で来る。そのせいでなんとなく無下に扱いにくいが、本当は大掃除のたびに捨てたくてたまらないのである。EUなど、登録証を電子データで発行する地域もあるが、日本もそれでいいんじゃないの、と思う。
ところで、額縁に飾られている飲食店の商標登録証をよく見ると、権利の取り方が間違っていることもたまにある。例えば店名の商標なのに、指定商品が食料品だけだったりする。
「店長、これじゃ屋号を保護したことになってないよ! 第43類で出願し直した方がいいよ!」
とは言わない。店長がその気になってるところに水を差したくはないのだ。それに、商標登録されていようがいまいが、ここの煮魚は絶品なのだ。事あるごとに人に勧めまくっている。登録の仕方に見て見ぬ振りをしている負い目もあり、この店の業務上の信用の保護と向上は、僕が勝手に口コミによって引き受けているのである。(友利昴)