商標登録は、時として予想の範囲を超えた結果をもたらすことがある。商標所有者は通常、商品を販売したり、サービスをプロモーションしたりする目的で商標を登録する。しかしながら、環境が整わないせいか商標が使用されていないことが時々見受けられる。商標所有者をあまりのんびりさせないために「やり(pike)」の仕掛けがある。この文脈における「やり」とは、3年間で商標を自由な存在にするための法律である。つまり、商標登録後3年経過して商標が使用されていないため、商標権が取消される可能性がある、というものだ。商標登録にはお金がかかるが、商標の不使用取消し手続きは珍しいものではない。未使用の理由は様々で、不使用取消し手続きは簡単だが、ほとんどの場合、商標所有者の頑固な抵抗に遭う。商標出願中の不使用取消しの場合など、商標所有者の同意書によって争いが解決され出願商標が登録になることや、商標所有者が別角度から創造的に不使用問題に取組むこともある。
今回のケースは、商標所有者が自社の登録商標を適切に使用していないため、相手方の侵害行為に見せかけたものだ(imitate:裁判所用語)。商社であるAnt-Prom(商標所有者)は、Steel Force Ltdに対し商標権侵害を主張し、500万ルーブル(約85,000米ドル)の損害賠償を求めて提訴した。原告は登録商標(右上写真)イメージをインターネット上で被告が使用しているのを見つけた。原告の商標は6類(一般金属及びその合金、金属建材、金属製運搬建造物、鉄道用の金属材料など)の商品を指定している。第一審裁判所は原告の主張を一部認め、損害賠償金額を3万ルーブル(約510米ドル)と判じた。
Steel Force Ltdは自社のウェブサイトにスチールドアを宣伝広告した上で、上訴した。控訴裁判所は、本件を審査し、民法(第1477条および第1481条)および最高裁判所の意見を根拠に、「商標は商品を識別するためのものであり、工業所有権の保護手段の1つである」と述べた。「商品の識別」がキーフレーズである。事実、原告は商標を使用していなかったが、他人の使用から商標を保護することを望んでいた。
控訴裁判所は、事実に基づき、商標所有者の権利の乱用が立証された場合、商標の保護を拒否することができるとした。民法には、商標は登録されたのち使われなければならない、それ故に、商標所有者が登録商標を使用しない状況で、他人による同一または類似の商標の使用に障害を与えることを目的とする行為は不公正であるとみなされるべきであり、この行為は裁判所によって保護されるべきではなく、裁判所はこの行為を「侵害行為の見せかけ(imitation of infringement)」、という一般的要件が含まれている。また、控訴裁判所は、商標が未使用という事実以外に、登録の目的、商標所有者の意思、商標が使用されなかった理由について調査することが必要である、と述べている。商標所有者は自分自身またはライセンシーによる使用を目的にするのではなく、他人に使用させないことを唯一の目的としている場合は商標所有者の権利は保護されない可能性がある。
このケースにおいて、原告によるスチールドアに関する商標の使用は裁判資料で確認されなかった。事実、(公証人によって認証された)原告の公式ウェブサイトは、原告がスクリューパイル、鉄骨構造の設計、貨物の輸送において取引を行っていることを示しただけである。原告は訴訟を起こす前に、ドアの販売例が幾つかあったが、それが原告によるドア関連商標を使用した販売例であることを確認することはできなかった。これは、ロシアの司法機関で長い間確立されたもので、商標の使用事実を立証するときに、1台のフェラーリの販売と複数のマッチ箱の販売を比較することはできないというものだ。原告は、訴訟を提起した後にのみ、スチールドアの供給契約書やその他の書類を提出した。このような状況において、控訴裁判所は第一審裁判所の判決を取消し、原告に裁判費用を支払うよう命じた。