「名声を有する」EUTM(欧州連合商標)の所有者は、名声を有しないEUTMの所有者よりも広い保護範囲を主張することができる。最近、文字要素「Pear(梨)」と梨の図形要素を持つ結合商標2件の商標出願に対して、米国アップル社が行った異議申立てにおける名声を有する商標の保護範囲について、NovagraafのFrouke Hekkerが要点を解説する。
商標登録はブランド名や製品名を使用するための第一歩にすぎない。ブランド所有者は、価値ある商標を保護し権利行使できるように、第三者によって新規に出願された商標によって既存の権利が侵害され、損害を生じさせることがないように監視する必要がある。もし紛争が起こった場合には、商標権者は自分の権利と同一または混同するほど類似していることを理由に、後願商標に対して異議を申立てることができる。混同するほど類似するかどうかを審査するため、商標登録官は両商標の外観、観念、称呼の類似性について、その識別力や要部を考慮して査定する。
名声を有する商標の広い保護範囲
「名声を有する」EUTMは、EU商標法の下でより高いレベルの保護を受けることができる。「名声を有する」商標の所有者は、EUの多くの地域で多くの公衆に知られていることを示すことで、類似する商品・役務に使用される同一または類似する後願商標だけでなく、類似していない商品・役務に使用される後願商標にも対抗することができる。ただし、このより高いレベルの保護は、侵害のおそれのある商標による正当な理由のない使用が先願商標の識別性又は名声を不正に利用し又は害するものである場合にのみ適用される。
名声を有する先願商標にとって「不正な利用」とは?
EUの判例によれば、第三者による商標の不正な利用は、「名声を有する商標に類似した標識を使用して、自ら努力することなく、報酬を支払うこともなく、商標権者がマーケティング等の努力の上で創作し維持してきた商標の顧客吸引力や名声の恩恵を受けていれば、このような使用は名声を有する商標の識別性や名声を不正に利用したとみなされなければならない。」となる。
先願商標の識別性や名声に対する「有害」とは?
商標の識別性に対する有害な例として「希釈化」が知られている。これは、第三者による同一または類似標章の使用が先願商標に悪影響を与えるリスクに関連している。先願商標の識別性と名声が高ければ高いほど、損害の立証は簡単になる。
商標が名声を有するとみなされるのは?
名声を有する標章と認定されるためには、EUTMの所有者は当該標章がEUのかなりの地域で名声を有することを示すことができなければならない。実際には、標章を付す商品・役務に関連する公衆が標章に関してある程度の認識を持つ必要があることを意味している。しかしEUの判例によれば、知識の程度はパーセンテージに置き換えることはできないとされる。代わりに、名声問題を検討する際に考慮する必要がある要因として、商標を付した商品・役務のマーケット・シェア、マーケットでの強さ、地理的範囲、使用期間、事業投資規模が挙げられる。
リンゴとナシ
最近、EUIPO(欧州連合知的財産庁)は、米国アップル社とマカオのPear Technologies社間の2件の異議申立て案件に対する査定を行った。Pear Technologies社は2件の図形と文字の結合商標(Pear商標、下図)を出願し、米国アップル社は自社の著名な図形商標(APPLE商標、下図)に類似するとして異議を申立てた。EUIPOの異議部は、アップル社の異議申立てを認め、Pear Technologies社の出願商標の登録を拒絶した。この拒絶査定は、EUIPO審判部(Board of Appeal:BoA)によっても支持された。
この審理で考慮された重要事項は次のとおり;
* APPLE商標と、Pear Technologies社が商標登録を求めている標章(茎を含む果物の図形要素)は、離隔的に類似がみられる。またシルエットは類似と考えられる。
* 観念的にみると、リンゴとナシは別々の果物ではあるが、互いに密接に関連しているため観念類似といえる。
* APPLE商標は高い名声があり、製品およびサービス(技術的に高度な電子機器およびITサービス)に関連して、完全に恣意的であり、高い識別力を持っている。
* 高い識別力の結果として、消費者はAPPLE商標と、Pear Technologies社によって出願された標章に関係性があると考える可能性が高い。
* 明白なアップルの名声と、消費者によるAPPLE商標と出願されたPear商標の混同を考慮し、審判部はPear Technologies社が自社標章の商標登録により不正な利益を得るであろうと考えた。アップル社はハイテク製品のプロバイダとして知られているため、APPLE商標の所有者に費用を支払うことなく、この類似標章がPear Technologies社に利益をもたらす可能性が高い。
* 審判部によると、Pear Technologies社はApple商標の象徴的な果物のイメージに便乗し、似たような果物を採用した。つまり「リンゴ:apple」に似た果物、すなわち、それは「梨」であった。
結果として、Pear Technologiesが出願したPear商標の拒絶が確認されている。