2017-05-09

タイの新しいオンライン知的財産権侵害対策法 - Tilleke & Gibbins

知的財産権の侵害が実際のマーケットからオンライン・マーケットに移行している。ソーシャルメディアやソーシャルネットワークを通じた模倣品の販売や、海賊版コンテンツのアップロードが簡単にできるようになった。ほとんどの場合、偽装したユーザー名を使用しているので侵害者の追跡を難しくしている。
タイ政府は、2015年に著作権法を改正してこの問題に取り組んだ。さらに2017年5月に発効するコンピュータ犯罪法改正により、権利者はオンライン知財侵害者と戦いやすくなりそうだ。2つの法律は同じ目標を持っているが異なる方法で適用される。ここでは、オンライン知財侵害に対処するための2つの異なる法的アプローチの概要を説明する。

著作権法
2015年8月4日に発効した改正著作権法(第2号)は、オンライン著作権侵害に対処する手段を著作権者に提供している。改正著作権法第32/3条では、インターネット・サービス・プロバイダー(ISP)のコンピュータ・システム上で、著作権の侵害があったと信じる証拠がある場合、著作権者はISPに対して著作権侵害を停止させる命令を出すことについて裁判所に申立てることができる。申立書には、①ISPに関する情報、②著作権を侵害されたとする、著作権がある作品、③著作権を侵害して作られたとされる作品、④著作権侵害に関する証拠を含む、知りえた経緯、行為を発見した日時と、行為または態様、⑤著作権の侵害とされる行為を起因として発生がありえる損害、⑥ISPに対して、著作権の侵害によって作った作品をISPのコンピュータ・システムから削除させる、または、その他の何らかの方法で著作権侵害を停止させる旨の強制命令請求、が明確に記載されていなければならない。必要な情報がすべて揃い、裁判所がその必要性を認識すれば、裁判所はISPに著作権侵害コンテンツの削除を命じることができる。その後、著作権所有者は特定の期間内に侵害者に対して法的措置を開始できる。
障害:
侵害コンテンツの削除命令にたどり着くには幾つかの問題がある。削除命令が発せられなかった多くの例では、著作権者が侵害調査プロセスの詳細や証拠などの十分な情報を提供することができなかったと裁判所が判断し、削除命令の発行を認めなかった。裁判所が削除命令を認めたとしても、行使プロセスにも問題がある。タイ国外に置かれているサーバーを使用している外国のISPを対象とする削除請求は、第32/3条でウェブサイトのブロックを明示的に規定していないため、強制できることは稀だ。その結果、著作権者によっては、他の権利行使オプションを検討することになる。

コンピュータ犯罪法(CCA)
旧CCA(Computer Crime Act)では、公序良俗に反して模倣や偽造されたコンピュータ・データの削除命令を役人が裁判所に求める仕組みを作った。しかし、実際にこの方法は実行可能ではなかった。なぜなら、模倣品を販売する行為やインターネットユーザーによる海賊版コンテンツの共有を「模倣や偽造されたコンピュータ・データ」と定義することが困難だったからだ。インターネット上のこれらの種類の知的財産権侵害犯罪に対して措置を取ることに消極的であったと言わざるを得ない。
改正コンピュータ犯罪法第20条第3項:
改正CCAでは、オンライン上の知的財産権侵害に対処するための新たな執行措置の追加を含むいくつかの問題解決手段が導入された。2017年5月24日に施行される改正コンピュータ犯罪法によって、オンライン上で知的財産権を侵害するコンテンツを持つウェブサイトをブロックし、そのようなデータの削除を行う恒久的な差止命令の執行が可能となる。第20条第3項は、知的財産権に対する刑事犯罪であたるコンピュータ・データが流出された場合、役人はデジタル経済社会大臣(Minister of Digital Economy and Society)の承認を得て、コンピュータ・システムからデータ配信の差止やデータの削除を裁判所に申立てることができる。CCAに基づき、デジタル経済社会省(MDES)とその役人は、これらの規定に関する主要な権限を有することになる。
手続きの実施:
実際には、多くに場合ウェブサイト上で侵害の疑いがあるものを発見するのは知財オーナーであるため、知財オーナーが検知したウェブサイトのURLについて証拠を収集し、調査を担当するデジタル経済社会省の役人に提出する。大臣が承認すると、役人はウェブサイトをブロックするか、コンテンツを削除する申請を裁判所に申立てる。しかし緊急の場合、役人は大臣からの承認を得る前に裁判所に申請することもできる。この場合、担当官は申立後速やかに大臣に報告しなければならない。裁判所が申立てを認めた場合、役人はウェブサイトをブロックするかISPにブロックするように命じる。裁判所命令を実施するための取決め、時期、方法は大臣の通知に規定される。改正CCAを行使することにより、知財オーナーはインターネット上の知的財産権を侵害データの流出をブロックする権利を有することになる。

どちらの法律を適応するか?
オンライン上の権利侵害に対応するという目的で、2つの法律で異なるアプローチとなる。 著作権法第32/3条とCCA第20条第3項を比較すると、侵害の範囲、命令の種類、利用可能な措置、対応する責任者に関していくつかの違いがみられる。
著作権侵害を伴わない場合は、適用可能な唯一のアプローチはCCAとなるが、著作権侵害の場合は、2つのアプローチのどちらかを選択できる。ただし、著作権法第32/3条の下で証拠を調査、収集する権利者の負担は、CCAよりも重くなる。なぜならCCAでは役人が責任を負うからだ。さらに、CCAが更なる法的措置を必要としない恒久的差止命令による救済を提供する一方、著作権法では侵害コンテテンツを差止めた後、法的措置の開始を要求することができる仮差止の救済が受けられる。知財オーナーは、オンライン上の権利侵害に対抗するため適切なアプローチを決定する際に、これらのさまざまな要素を念頭に置いておく必要がある。

これから
改正著作権法と改正CCAは非常に効果的な手段になり得る。CCA第20条第3項は、知財オーナーがウェブサイト上の知的財産権侵害に対して権利行使する新しいアプローチとなる。他の国の法律と比較しても、ウェブサイトのブロックはオンライン上の権利侵害に対抗するための新たな手段だと思われる。すべての新しい法的アプローチと同様に、タイの技術進歩のペースに影響を与えることなしに、CCAが効果的かつ公正に適用されることを願う。CCAが有効な手段になるかどうかを評価できるのは、裁判例の検討まで待つことになるが、CCAがどのように解釈され、適用されるのかという問題は、知財オーナー、政府、裁判所の動きを見守る必要がある。

本文は こちら (Thailand’s New Law for Combating Online IP Infringement)