ロシアの著作権侵害行為防止法(Anti-Piracy Law)は、2013年8月1日に発効した。この法律は、インターネットを含む様々な情報・電気通信ネットワークにおいて、違法なビデオ・コンテンツ、音楽、文学作品、ソフトウェアおよびデータベース、放送、その他の著作権および関連する権利(写真を除く)に含まれるオンライン・リソースの配布を差し止める独自の著作権保護の仕組みを規定している。これは、インターネット上の違法コンテンツの複製、使用、および配布に責任を負う可能性のある広範囲の人々(いわゆる「情報仲介者」)を定義している。このような情報仲介者は、電気通信事業者、ホスティング・プロバイダ、ウェブサイト所有者の3つのカテゴリーに分類される。
この法律は、上記3つのカテゴリーに属する企業の免責条件も定めている。次の条件が満たされる場合、電気通信事業者(第1カテゴリー)は知的財産権侵害に対して免責される。
- コンテンツの送信を開始していないし当該コンテンツの受信者を選んでいない
- 通信サービスを提供するにあたり当該コンテンツを改変していない(コンテンツ配布の技術的プロセスを維持するために必要な改変を除く)
- 知的財産権を含むコンテンツの送信を開始した者による知的財産権の使用が違法であるという事実を知らなかった
また、次の条件が満たされている場合、ホスティング・プロバイダ(第2カテゴリー)は知的財産権侵害を免責される。
- 当該コンテンツに含まれる知的財産権の使用が違法であると言う事実を知らなかった
- 権利者から、当該コンテンツがアップされたウェブページまたはIPアドレスを明記した知的財産権侵害の警告状を受領後、問題の知的財産権侵害を停止させるべく必要かつ十分な措置を取った
この条件は、ウェブサイト所有者(第3カテゴリー)にも適用される。
この法律は、このカテゴリーにおける紛争の管轄をモスクワ市裁判所とすると定めた。したがって、オンライン情報リソースで違法に配布されたコンテンツ、またはダウンロードするためのウェブリンクを発見した場合、権利者は(正式な訴状を提出する前に)モスクワ市裁判所に仮差止救済を申し立てることができる。
仮差止救済では、裁判所が強制執行令状を発行し申立人に交付するか、申立人の請求があった場合は、差止手続きを開始する目的でロシア連邦通信局(Roskomnadzor)に送付する。
排除手順:違法コンテンツの排除は次のように行われる。
- 権利者または排他的ライセンシーは、強制執行令状を取得後、違法コンテンツを配布するオンライン情報リソースへのアクセスを制限する措置を取るようロシア連邦通信局に要請する
- ロシア連邦通信局は受領後 3 営業日以内に、該当する情報仲介者(ホスティング・プロバイダなど)を特定し、排他的権利が侵害されている旨の電子警告状を送付する。この通知は、ロシア語と英語で行われ、違法コンテンツを排除するために必要な措置を取るよう要求する
- 警告状の受領から1営業日以内に、ホスティング・プロバイダ(または別の情報仲介者)は、オンライン情報リソースの所有者に警告状送付の旨を通知し、ウェブから違法コンテンツをすぐに削除し、アクセスを制限する措置をする必要があることを所有者に通知しなければならない
- 警告状の受領から1営業日以内に、オンライン情報リソースの所有者は、ウェブから対応する違法コンテンツを削除する義務を負う
所有者がウェブから違法コンテンツの削除を拒否した場合、または所有者がこれを行わない場合、情報仲介者は3営業日以内にオンライン情報リソースへのアクセスを制限する措置を講じなければならない。この要求に応えることができない場合、ロシア連邦通信局は24時間以内に当該情報へのアクセスを制限することができる。
恒久的な差止め:権利者および排他的ライセンシーは、インターネット・リソースを恒久的に差し止めることができる。著作権侵害行為防止法は、著作権または関連する権利に対する繰り返される侵害を制裁する規定を定めている。モスクワ市裁判所が決定を発令した後、同一の申立人からの請求を受領した場合、侵害は「繰り返された」とみなされる。現在、223のウェブサイトが恒久的に差し止められている。
今後の改正:実際には、侵害者は裁判所の決定が発令されると当該ウェブサイトを「ミラー」(派生ウェブサイト:derivative websites)に移動し、侵害行為を続けることがよくみられる。侵害者にこのような逃げ道を与えないように、ロシア連邦議会は、恒久的なウェブサイトの差止めに関する裁判所の決定が出された場合、知的財産権者が裁判所に対して新たな手続を開始することなく、数時間以内の差止め請求を可能にする法案を検討している。ここ数年の間に著作権侵害行為防止法は、著作権者がインターネット上の海賊版コンテンツや違法コンテンツと戦うための最も効果的で有用な執行ツールの1つであることが証明されている。
ロシア連邦通信局の公式統計によると、約1,500のウェブリソースが著作権侵害行為防止法の手続に関連し、約27,000の知的財産権が権利行使されたという。