一、案件紹介
戴比尔斯百年有限公司(De Beers Group、以下「デビアス」と略称する)は「FOREVERMARK」を商標として登録して使用している。その後、高文新はその生産販売の事業経営のために「永恒印记」という商標を登録した。デビアスは当該係争商標が自ら保有する英語の登録商標「FOREVERMARK」と類似すると主張し、商標評審委員会はその主張を容認した。高文新は行政訴訟を提起したが、一審と二審のいずれも類似商標を構成すると判定された。高文新はこれを不服とし、最高人民法院に再審を請求したのである。
二、当事者の主張
再審請求人である高文新は下記の主張を行った。
1.生産販売のため係争商標「永恒印记」を登録し、かつ実際に使用する行為は「フリーライド」や「モノマネ」といった主観的悪意はない。
2.係争商標と引用商標は類似しない:
(1)全体的視覚効果は似てない。係争商標は中国語の文字である一方、引用商標は一連のアルファベット組合せである。
(2)意味が違う。「FOREVERMARK」はアルファベットの組合せであり、「FOREVERMARK」と係争商標は同じ意味があるわけではない。「FOR EVER MARK」に分解されてもよいが、係争商標とはいかなる関係も生じない。仮に「FOREVER MARK」だとしても、「永久の標識」「永遠の痕跡」などに訳されるだけで、類似しない。
(3)関連公衆の一般的な注意力から見ても似てない。係争商標は中国語文字商標として、中国の関連公衆に認識されやすい。引用商標は英語であり、一定の英語の基礎のある関連公衆しか認識することができない。
3.類似商標と認定するためには、知名度、顕著性及び使用状況などの要素が総合的に考慮されるべきである。
(1)係争商標は既に大量に実務上使用され、長期の宣伝を経て一定の知名度を持ち始めているとともに、その商品の供給元を識別することができるが、引用商標には知名度を証明する証拠がない。
(2)係争商標は顕著性が高く、高度な独創性と顕著性を備えており、「印记」は一端的に使用されない言葉である。引用商標は固有の英単語であり、顕著性が弱い。
(3)デビアスは「永恒印记」を実際に使用したこともなく、有効な先行商標も存在しない。
一方、デビアスは係争商標と引用商標は類似商品での使用において類似商標を構成するため、取消されなければならないと主張した。
三、最高人民法院の判断
係争商標と引用商標とが商標法における類似商標に該当するか否かは、関連公衆の一般的な注意力を判断基準とするべきである。係争中国語商標と引用英語商標間の類似性を認定するには、下記の要素を考慮するべきである。
つまり、関連公衆の英語商標に対する認知レベルと能力、中国語商標と英語商標の観念の関連性又は相応性、引用商標自体の知名度と顕著性、係争商標の実際の使用状況などである。
1. 関連公衆の英語商標に対する認知レベルと能力 これは二つの要素に関している。一つは我が国の関連公衆の英文に対する認知レベル、もう一つは英語引用商標の語彙としての常用性である。我が国が9年制の義務教育を開始してから数年経過しており、英語は義務教育の重要な学科であり、大学入試センター試験の受験科目ともなっているため、国民が英語の語彙に対して相当な認知力を備えるようになっている。通常の記載習慣ならば、関連公衆は「FOREVERMARK」を「FOREVER MARK」と読みがちである。「FOREVER」と「MARK」は、いずれも使用頻度がやや高い簡単な常用語彙である。このようにしてみると、関連公衆が引用商標の中国語の意味に対して相当な理解力を有する場合では、引用商標に相応する中国語の意味と引用商標を結びつけやすいである。
2. 中国語商標と英語商標の観念の関連性又は相応性 このような関連性と対応性は中英翻訳と英中翻訳の二つの角度から検討できる。「FOREVERMARK」は「永恒印记」に訳すことができるが、「永恒印记」を英語に訳す場合、「FOREVER MARK」に訳すこともできる。従って、両商標は観念的には確実に対応関係があり、関連公衆はこの両者を結びつけやすい。係争商標と引用商標とが同一商品又は類似商品に共に使用される場合、関連公衆は一般的な注意力をもってしても、当該商品が同一主体或いは両者間に特定な関係があると誤解しやすい。
3. 引用商標自体の知名度と顕著性 当事者から提供された証拠からみると、デビアスは係争商標を出願する前に、国内の新聞に景品付き販売などの形式を採り引用商標を宣伝しており、一定の知名度がある。
4. 係争商標の実際の使用状況など 高文新は主に係争商標が企業名称及びアクセサリー加工サービスの広告として用いられた使用状況を証拠として提出した。係争商標が査定使用の商品部類には規模が大きくないため、係争商標が実際に使用されてからやや高い市場名誉があるのを証明できない。また、関連公衆が既に客観的に引用商標と識別していることすらも証明できない。
以上をまとめ、最高人民法院は一審及び二審の法院が係争商標と引用商標が類似を構成すると認定した判断は適法であるとして、高文新の再審請求を棄却したのである。
四、実務上の啓発
本件から分かることは、グローバル化につれて、英語は国際的言語として一般大衆の生活に入り込み、伝統的商標法にも新たなチャレンジがもたらされたと言うことである。中国語と英語の表記の商標の間に存在する類似性判断の問題も裁判所と商標権者により重視されるようになったのである。最高人民法院が上記の事件での判決理由に述べているように、実務上中国語と英語の表記による商標の間で類似の有無を認定するには、多方面の要素から考慮すべきである。筆者が特に取り上げたいのは、各要素を判定する際に、重要度合は慎重に行われなければならないことである。
まず、関連公衆の英文に対する認知レベルは真っ先に考慮しなければならない。これは類似商標を構成する前提として、もし公衆が英語の語彙を認識できないならば、中国語の商標との類似性は生じえないこととなる。
次に、当該中国語と英語の表記の商標の間に強い関連性が存在するかどうかである。例えば、意味が同一、或いは意味が近く、かつ類似商品に使用されて、公衆に誤認されやすいかどうかである。
その他には、引用商標の知名度と係争商標の使用状況は補助要素として相互に考慮しなければならない。例えば、引用商標の知名度を判断する際に、引用商標に対して、非常に高い知名度を要求してはならない。当該分野で係争商標よりも公衆によく知られている程度ならば、その知名度は認定できるであろう。同様に、係争商標の使用状況を判断する際、単純に生産規模或いは売上高で認定してはならない。商品の主な製造販売地域では、係争商標は大量に使用されるだけでなく、公衆にもよく知られている。例えば、他の地域では係争商標の使用がそこまでなくても、係争商標は一定の認識度があると認定し、引用商標と区別することもできるであろう。
以上に説明したことを総合すると、中国語と英語の表記の商標の間に類似性の有無を認定することは、主観的要因と地域性の理由から、事件の実際の状況に基づいて総合的に分析することで、おしなべて同じように論じることで不公平な結果とならないように注意することが肝要である。
Authors: Watson & Band Law Offices