近年、欧州連合知的財産庁(EUIPO)やEU加盟国の知的財産庁の多くは、図形商標の出願で厳格な登録審査を行っており、識別力の欠如を理由にした拒絶が増えている。最近EUIPOで「Tasty Puff」文字/図形商標の商標登録が拒絶された。この査定は図形商標を登録しようとするブランドオーナーのガイダンスとして役立つものと思われる。
商標登録基準
商標登録のための主要な要件「識別力」がある。関連する公衆が特定の事業に属する商品・役務と他人の事業に属する商品・役務とを識別することができることをいう。標章が付される商品・役務の数量、品質、特性、目的、態様またはサイズなどを普通に説明しているような場合には、標章に識別力があるとはみなされない。これは事業に関連する説明的な言葉を独占させないためのものである。
「Tasty Puff」ロゴは第34類(タバコ/喫煙用具)を指定してEUIPOに商標出願され、登録を拒絶された(EU 一般裁判所、2017年1月28日:Tasty Tuff (T-64/16))。審査官は、その標章が記述的であり、識別力がないと判断した。選択した文字の書体とドットの結合が普通の文字と区別するのに十分だということに審査官は同意しなかった。確かに、丸みを帯びた書体とドットは、たやすくタバコの煙を連想させるかもしれない。EUIPOはまた、「Tasty Puff(おいしい煙)」が、タバコの味を直接的に表現した「delicious smoking(おいしい喫煙)」と解釈される可能性が高いと判断した。
図形商標の特定
記述的または識別力のない文字標章は、全体的な特徴となる他の要素と組み合わることで、商標(文字要素とロゴなどの図形要素との結合商標)として認められることがある。記述的な文字に図形要素を追加することによって、識別性の要件を満たすことがあるためだ。しかし近年、単に図形要素を追加しただけでは、識別力の欠如を克服できなくなってきた。図形要素の追加が、記述的ではなくなる「何か」の追加とならなくてはならない。例えば、「キウイ(Kiwi)」という文字にキウイフルーツの絵が追加されても、果物として識別力のある標章にはならず、逆により記述的になってしまう。複雑な幾何学的形状など果物と無関係の図形を追加することによって初めて識別力を持たせることができる。
2015年10月、欧州商標意匠ネットワーク(European Trade Mark and Design Network)は、EUIPOとEU加盟国のいくつかの国の商標庁が採択した枠組みである「コンバージェンス・プログラム3」を発表した。この枠組みで、記述的であり、識別力のない文字(要素)と結合した図形商標の登録に関する一般的実務に関して合意をしている。このプログラムの目的は、EU加盟国間の法的安定性、透明性、予測可能性を高めることにあった。それは、記述的または識別力のない要素を加えても識別力の基準を満たさない図形要素と文字要素の例を以下に示している。
- 標準または基本書体
- 単なる単色の追加
- 商取引に一般的に使用される句読点、その他の記号の追加
- 要素が上下逆さまに配置されたもの
- 点、線、円などの単純な幾何学的形状の使用
- 図形要素が商品・役務と直接関連しているもの
- 指定商品・役務で一般的に使用される図形要素
しかしながら、特定の要素の組み合わせが、全体的に(商標登録基準を満たす可能性のある)出所表示として認識される可能性はある。これには、記述的または識別力のない文字要素だという印象から十分逃れられるほどの全体的としての識別性を必要とする。
そのブランドは広く使用されているか?
ブランド名に識別力の欠如があっても商標登録を獲得できることもある。標章が長期的および広範囲に使用されることで、標章が市場で認知されたことを証明できた場合である。これが認められるためには、消費者が標章を商品の説明としてではなく、商品の出所を示すものとして認識していることを証明しなければならない。これには、標章を付した商品・役務のマーケト・シェアや地域的な広がり、標章の使用期間などを示す必要がある。ドイツの自動車メーカー、アウディが記述的なドイツ語フレーズ「VORSPRUNG DURCH TECHNIK(技術による進歩)」の商標登録に成功したのはこの例である。
使用可能性も重要
標章の識別力は主観的に評価されることが多い。しかし、事前に新ブランドの記述性や識別性を検討して、その商標登録の可能性を調べることはできる。それに、新ブランドを発表する前に、その標章が使用可能であることを確認することも大変重要だ。
本文は こちら (’Tasty Puff’ and the threshold for figurative trademarks)