ユニバーサルミュージックオーストラリア社とTPGインターネット社(オーストラリア大手のインターネット・プロバイダー)で争われた裁判(TPGインターネット事件)で最近判決が下された。これは、著作権者と独占的ライセンシーにとって、オーストラリア国外で運営されている海賊版ウェブサイトから権利の保護を勝ち取る結果となった。
2017年4月28日、オーストラリア連邦裁判所のバーレイ判事は、「KickassTorrents(世界最大級のアクセス数を誇るオンラインファイル共有サイト:以下、KAT)」と呼ばれるウェブサイト上のコンテンツを提供する30以上の被告(サービス・プロバイダー)に対して訴訟を提起した著作権者である原告勝訴とした。KATウェブサイトでは、Peer to Peer(P2P)を用いたファイル転送用プロトコル及びその通信を行うソフトウェアであるBitTorrentを使用して、著作権者または独占的ライセンシーの持つ録音を含むデータが共有されていた。
TPGインターネット事件は、ロードショー・フィルム社とテルストラ社 (オーストラリア最大の公共・民間所有の通信会社)の裁判(ロードショー事件)に続いて決着した。このサイトでは、映画の著作権者と独占的ライセンシーが、映画コンテンツを共有するためのウェブサイトの使用について提訴していた。どちらの事件も、2015年6月下旬に改正された1968 年著作権法第115A条(ウェブサイトへのアクセス制限)が議論の中心となった。
TPGインターネット事件では、音楽コンテンツに法第115A条を適用することを考慮しただけでなく、バーレイ判事は両当事者間の費用負担に関しても注目に値する決定を行った。
著作権法第115A条とは何か?:著作権法第115A条は、海外のウェブサイトからオーストラリアのインターネット・ユーザーに著作権侵害コンテンツを供給することを妨げる目的で制定されたもので、無過失救済(no-fault remedy)である。この規定により、著作権者はキャリッジ・サービス・プロバイダー(通信サービスプロバイダー:ISP事業者)に対して海賊版コンテンツを掲載しているウェブサイトへのアクセスをブロックする差止めを連邦裁判所に請求することができ、連邦裁判所はISP事業者に対してオンライン・ロケーション(online location)またはウェブサイトへのアクセスを遮断にするための合理的措置をとることを命ずる差止め命令を、以下の条件を満たした場合に発布することができる。
- オーストラリア国外にあるオンライン・ロケーションであること
- 当該オンライン・ロケーションが著作権を侵害する又は侵害を幇助するもので
- 当該オンライン・ロケーションの主要な目的が著作権を侵害又は侵害を幇助するものであること
TPGインターネット事件:バーレイ判事は、被告が原告の差止め請求に必要な要件を満たしていたかどうか争わなかったことに満足した。判事は33の被告ISP事業者に対して、KATウェブサイトへのドメインネーム・システム・ブロッキング(DNSブロッキング:DNSサーバが管理者の指定したドメイン名に対応するIPアドレスの照会を行わないこと)を実施することによって、インターネット・ユーザーのアクセスを遮断にする差止め命令を発布した。ロードショー社のケースでは、ニコラス判事が、BitTorrentプラットフォームを使って著作物を共有していた別のウェブサイトに対して似たような命令を出していた。
この2つの事件でもう一つ共通する問題は、著作権法が見逃している問題である費用に関する争いであった。特に、TPGインターネット事件で提起されたのは;
- DNSブロッキングメカニズムの実装とそれを順守するためのコスト負担
- 訴訟費用の負担
バーレイ判事は、ブロッキング請求に対する被告の順守費用は原告が支払うべきであると考えた。この結論を導くにあたり、原告が著作権法第115A条から商業的利益を受けるとの被告の主張を判事は以下のように認めた;
…ノーリッチ医薬品(Norwich Pharmacal)裁判、予備的証拠開示、召喚状の管理などで培われた原則の下で係争当事者の利益のため第三者に要求する裁判所の強制力を利用したプロセス。…順守により発生する費用に関しては、通常申請者から補償を受けることで無過失の第三者を救済する。
原告は、被告である電気通信キャリアも法第115A条から利益を得たと主張したが、判事はこれらの主張を棄却した。たとえ原告が何らかの派生的な商業的利益を享受していることを証明することができたとしても、「商業的利益が申請者と直接的に関係しているという事実を排除するものではない」とバーレイ判事は判じた。順守コストは、ドメイン名ごとに$ 50で設定された。KATウェブサイト・ネットワークには7つのドメイン名があった。総コストが350ドルとやや小さかったことを考えると、これらのコストに関する議論は明らかに原則の1つでしかないということか。
訴訟費用に関して、バーレイ判事は、ロードショー事件のニコラス判事同様、順守費用の問題に関して、証拠調べの準備と書面や口頭での提出物に関する被告側の費用を原告に支払うよう命じた。この種の訴訟に将来関わる人にとって、バーレイ判事の法的スキームはこれらの費用負担について当事者間で建設的な議論があることを前提にしていると考えた方がよいであろう。
本文は こちら (‘Kickass’ result for copyright owners: blocking orders for pirate website)