不使用取消審判において、本件商標は靴形状の点線部分を含めた使用が必要として商標の同一性が否定された事例(「スニーカーX状標章事件」知財高裁 平成28年(行ケ)第10230号 平成29年09月14日)
事案概要 不使用取消審判の成立審決の取消訴訟において、本件商標(左図)と知財高裁で原告(被請求人)が立証した使用商標(右図)との同一性が争われた事案である。
判 旨 位置商標について定めた商標法の一部改正法(平成26年法律第36号による商標法5条2項5号等 平成27年4月1日)施行前には、我が国において、位置商標の出願についての規定はなく、本件商標についても、位置商標ではなく、通常の平面図形の商標であると解するほかない。
そうすると、本件商標と社会通念上同一の商標が使用されているというためには、黒い実線で囲まれたX字状の部分のみならず、靴の形状をした点線部分も、平面図形の商標として使用されていなければ、本件商標と社会通念上同一の商標が使用されているということはできない。
原告各製品には、X字状の標章が付されているものの、靴の形状をした点線部分の標章が平面図形の商標として使用されているということはできないから、本件商標と社会通念上同一の商標が使用されているとは認められない。
解 説 位置商標として登録された外国商標をわが国で、位置商標の登録制度施行前に、そのまま登録を受けた事案で、前掲X字状標章(右図)をもって使用を証明したが否定されたものである。本件商標の点線部分が使用商標にはないとして、同一性が否定されている。
しかし、使用商品は「スニーカー」であって、本件商標及び使用商標の図形部分とも一致する。そうとすれば、点線は「スニーカー」の形状を示すに過ぎず、本件商標の出所表示機能を果たす部分、すなわち、要部は「X字状標章」の部分にあり、使用商標の要部も同じである。パリ条約5条C(2)を持ち出すまでもなく、商標の機能から必然的に導き出される解釈である。需要者は「X字状標章」をもって当該「スニーカー」の出所を識別するほかはない。社会通念上の同一性を規定した50条1項括弧書きからは読み難いのかもしれない。(工藤莞司)