45年の沈黙を経て権利行使した「パッカス」、法院は権利保護の緊急性を認めず。
ソウル中央地方法院は最近、韓国で人気の疲労回復剤「박카스(パッカス)」で有名な東亜製薬が、同種業界の後発企業であるサムスン製薬の「박탄(パッタン)」を相手に提起した商標使用差止仮処分申立に対し、これを棄却する決定をした(ソウル中央地方法院2018年1月3日言渡し2017カ合81326決定)。
東亜製薬は1963年頃から「パッカス-ディー」という名称の疲労回復剤の販売を開始し、2013年頃からは「パッカス D」「パッカス F」「パッカス ディカフェ」および「パッカス エイ」を生産し販売してきた。一方サムスン製薬は1972年頃から「パッタン-ディー」という名称の疲労回復剤を販売しはじめ、その後数回にわたる名称変更を経て2003年頃から「パッタン エフ」という製品名の疲労回復剤を販売している。以降、両商標製品は長期間にわたり共存してきた。
しかし、東亜製薬は約45年が経過した2017年、サムスン製薬を相手に商標「 」は周知著名な自社の商標「 」および「 」と同一・類似であるため誤認・混同を生じさせるとして仮処分申立を提起した。
これに対し法院は、両商標は全体的な色の組み合わせ、商標を構成する形状、韓国語および英語の記載位置などが類似するため需要者に与える全体的な印象、記憶、連想などが類似するともいえるが、「パッカス(박카스)」は3音節、「パッタン(박탄)」は2音節で差異があり、楕円形部分もそれぞれ歯車の形状と刃の形状とで異なり、何よりも両商標は国内で長期間共存してくることにより需要者間で誤認・混同なしに区別されてきたという点から、両商標は混同可能性がない商標であると判断した。また「パッカス」製品と「パッタン」製品は1972年頃から現在まですでに45年の長期にわたり共存してきたが、これに対し東亜製薬が特に異議を提起してこなかった点に照らしてみれば、ただちに東亜製薬の権利を保護すべき緊急性も認められないと判断した。
上記の判決では、たとえ全体的に類似に認識され得る商標であっても、両商標が長期間紛争なしに共存してきた場合、そのような取引実情を考慮して仮処分申立を認めないとしたところ、仮処分事件における早急な権利行使の重要性を再度確認した事件といえ、特にme too商標が多い食品、化粧品、薬品業界の商標権者に示唆するところが大きいといえる。最後に、東亜製薬が45年の沈黙を経て行使した権利救済手段として本案訴訟ではなく仮処分を選択した点と、不競法の一般条項を権原としなかった点等に対しては心残りが残る。