韓国では最近、2014年6月11日施行改正法で導入された商標法上の信義則条項を判断した判例が相次いでいる。これについて以下のとおりご紹介する。
1. 商標法上の信義則条項
旧商標法第7条第1項第18号(現行法上第34条第1項第20号) 共同経営・雇用等契約関係もしくは業務上の取引関係またはその他の関係を通じて他人が使用し、または使用を準備中である商標であることを知ってその商標と同一・類似の商標を同一・類似の商品に登録出願した商標は、第6条にかかわらず、商標登録を受けることができない。 |
韓国国内で商標使用を準備中であることを知っている者が、正当な権原なしに同一・類似の商標を先制出願するケースのように、商標登録出願の過程で信義則に反する商標が出願された場合にこれを拒絶するためのもので、公正かつ健全な商取引秩序を確立するというのがその趣旨である。
2. 関連判例
1) WDJF事件(*1)‐「他人」か否かを実質的に判断した事例
原告は公演イベント事業を営む法人であり、被告は文化公演企画者で、被告のアイデアによる「ワールドDJフェスティバル」が2007年から現在まで毎年開催されている。原告名義で同フェスティバルと関連する業務協約や協賛契約が締結されはしたが、被告も総監督または共同代表の資格で原告とともに行政庁と業務協約書を作成した。
本件標章「 」は被告の具体的な指示を受けてデザインされた標章で、2014年のワールドDJフェスティバルから使用されており、被告名義で登録を受けた。
これに対し原告は、被告が原告の標章であることを知りながらも原告との協議なしに出願して登録を受けたもので、これは旧商標法第7条第1項第18号に該当するとして無効審判を請求したが棄却され、原告はこれを不服として審決取消訴訟を提起するに至った。
特許法院は、①被告のアイデアによりワールドDJフェスティバルが初めて開催された点、②被告も総監督または共同代表の資格で原告とともに関係行政庁との業務協約書を作成した点、③関係行政庁の担当者も、ワールドDJフェスティバルは被告が企画または主管する公演であると認知していた点、④被告は原告と労動契約書を作成しておらず、毎月定期的に給与の支払いを受けたものでもなかった点、⑤ワールドDJフェスティバルの開催により原告が負担することになり得る残存負債は被告が責任を負うことになっていた点、⑥本件標章は被告の具体的な指示のもとに、被告の希望に則してデザインされたものであるというデザイナーの陳述などに照らし、本件標章出願および使用に関する実質的かつ正当な権限は原告ではなく被告にあるとみて、本件標章が同条項違反であるという原告の主張を排斥した。
2)MKW事件(*2)‐取引関係が中断され先使用商標の商標権が消滅した場合でも他人の商標使用認識を認めた事例
被告は先使用商標「」を使用した自動車用ホイールを製造販売する者で、これについて登録を保有していた。原告は被告と2011年まで約4年間取引関係があり、その後中断されたが、原告は被告の登録商標が2013年に存続期間満了で消滅となったことを知るや、その後自身の名義で本件商標「」を新たに出願した。これに対し被告が旧商標法第7条第1項第18号に基づく無効審判を請求して認容されると、原告はこれを不服として審決取消訴訟を提起した。
特許法院は、①原告は約4年間にわたり被告の先使用商標が付された自動車用ホイールの供給を受け、そのような取引過程で被告が先使用商標を自動車用ホイールに使用しているという事実を明確に認識することができた点、②被告は原告との取引が中断されたあとも先使用商標が使われた自動車用ホイール製品を継続して販売してきたが、このような事実はインターネットを通じても容易に確認できたはずであるだけでなく、同種業者である原告としては取引先などを通じてもこれを難なく把握していたはずとみられる点、③被告先使用商標の商標権が消滅したことは被告による先使用商標の使用有無とは別個の問題なので、原告が被告先使用商標の商標権消滅事実を認知していたという点だけでは、被告が商標を使用していなかったと信じるだけの根拠にもなり得ない点を総合的に考慮して、原告は本件標章出願時に被告が先使用商標を使用していることを知りながらも出願・登録したものであるとして、同条項に該当すると判断した。
3.コメント
これらの判決は、健全な商取引秩序を確立するために信義誠実の原則に反する商標を拒絶するために信義則条項が新設されて以降、関連する判例が蓄積されていなかった状況で出された判決として、どのように各要件を判断しているのかを知ることができるという点で注目に値する。
特に、1)WDJF事件では旧商標法第7条第1項第18号で規定している「他人」か否かに対する要件判断において、標章創作への寄与の程度および事業関与の程度などを重点的に考慮して正当な権原が誰にあるかを実質的に判断している点、2)MKW事件では他人が使用し、または使用を準備中である商標であることを「知りながら」の出願であるかの判断において、取引関係が中断された場合にも同種業者であれば出願時にその使用事実を容易に知り得ることを強調し、他人の商標権が消滅したかどうかはこのような要件判断に障害にならないとした点で、それぞれ示唆するところが大きい。
このような判例の趨勢を参考に、今後取引関係があった者による模倣出願への対応時には同条項を積極的に活用できるものと判断される。
*1:特許法院2017年9月22日言渡し2017ホ3485判決(大法院審理不続行棄却で確定)
*2:特許法院2017年9月22日言渡し2017ホ3461判決(大法院審理不続行棄却で確定)