2018年2月28日、欧州委員会は2019年3月30日に英国の離脱条件を定める「離脱協定」の草案を公表した。この草案はEU側の立場で作られたもので英国政府と合意されたものではない。ただ合意を優先するため、英領北アイルランドとEU加盟国のアイルランド間の国境問題など難題は先送りした。この解決には時間がかかりそうだ。離脱協定には、Brexit後のEUTM(欧州連合商標)とRCD(欧州共同体意匠)の扱いに関する欧州委員会の提案を明示している。
第一に、協定案には移行期間(英国政府は実施期間という)があると想定している。欧州委員会は、移行期間は2020年12月31日までと提案している。それに対する英国政府の反応は、移行期間の長さは2年くらいが適切であろうというもので、2020年12月31日を少なくとも数ヶ月間延長する必要があることを示唆している。
移行期間中、英国では基本的にEU法が適用され、EU法の定義する「EU加盟国」には英国を含むものとして理解される。これは、EUTMおよび共同体意匠(登録済みおよび未登録)を含むEUの知的財産権が英国で引き続き効力を持ち、英国の裁判所によってEU全体として認識され執行されることを意味する。また、これには地理的表示や原産地名称の保護も対象となる。さらに移行期間中、英国の弁護士はEU知的財産庁およびCJEU(欧州司法裁判所)に対して代理権を行使できるというもので、英国政府もこれには同意しているようだ。
移行期間終了後、EUTM等のEU知的財産権の効力が英国にまで及ぶことはなくなるが、協定草案は、移行期間の終了前に登録または権利化されたEUの権利者は、自動的かつ無償で、英国で同等の知的財産権を付与されると規定している。EUTMの場合、同一の商品・サービスにおける同一の標識で構成される商標を意味する。また、英国商標はEU商標をもとにシニオリティを主張でき、離脱後に迎える最初の更新日は、対応するEUの権利の更新日と同じになると規定している。
英国政府がこれらの提案に満足するかどうかはまだ分からないが、英国は現在の権利を失わなければ、この一般原則を受け入れる可能性が高いようである。例えば、移行期間終了後も、次の更新日まではEUの知的財産権を英国裁判所が認識しなければならないというような判断を英国政府がする可能性もある。
もちろん、EUと英国が協定案を締結しない「ノー・ディール」シナリオもありえるが、その場合上記規定は適用されないことになる。交渉は予断を許さないが、協定が完全になくなる可能性は極めて低いと思われる。とはいうもの、知的財産権者はこのような事態への対応は慎重であるべきであろう。
本文は こちら (Brexit: The EU’s proposed Withdrawal Agreement and IP)