タイで、略語やNATOのように頭文字を並べた頭字語、一般的に使用されていない文字や発音できない文字を商標やサービスマークで保護したいと考えているビジネスオーナーは少なくない。タイの商標登録機関および商標委員会(The Board of Trademark)は、いつも裁判所に支持されるわけではないが、上記の商標の識別性について慎重な判断を行っている。したがって、ブランドオーナーは、それらの商標が登録されるのに十分な識別力があるかどうかの判断のために前例を戦略的に検討する必要がある。
現行のタイ商標法第4条によれば、標章とは「肖像,図案,創作物品,ロゴ,名称,語,句,文字,数字,署名,色彩の組合せ,物の配置,音又はこれらの組合せを意味する」と規定している。また、商標法第7条では、「識別力を有する商標とは,商標であって,公衆又は使用者が,その商標が使用されている商品が他の商品とは異なることを識別することを可能にするものである。下記の基本的特徴の 何れかを有している又はそれによって構成されている商標は,識別性を有するとみなす」とし、… (4) 装飾化された文字又は数字、と規定している。
知的財産局の商標審査基準によれば、装飾化された文字とは以下のいずれかの方法で表現される文字を意味している。(1) 相互に密着している文字、(2)奥行きのある文字、(3)パターンとして描かれる文字、(4)影とオーバーラップされている文字。これらの基準を解釈する際、登録官と商標委員会は、言葉ではない又は発音できない3文字又は4文字のスタイライズされていない標章を通常拒絶している。このため、識別力を確保するための装飾化の閾値についてはブランドオーナーが判断しなければならない。
多くの文字商標の出願は、識別力の欠如を理由で商標登録官および商標委員会によって登録を拒絶され、その結果、その大部分の出願は出願人によって放棄されている。ただし、出願人の中には、拒絶後の商標の登録をさらに追求する出願人もおり、次のような例がみられた。
識別性の欠如により拒絶された後、上記の標章の出願人は中央知的財産・国際貿易裁判所(IP&IT裁判所)に上訴し、最終的に最高裁判所に判断を委ねた。最高裁判所は3標章の争点で、すべてにおいて同様の認識を示し、それぞれの標章における独特な3文字の組合せは、スタイライズされていなくとも、十分な識別力があり標章は何れも登録可能と判示した。
最高裁判所の判断にもかかわらず、商標登録官はスタイライズされていない文字商標に関して厳格な解釈を維持している。2013年に、商標登録機関は商標「」の登録を拒絶した。この標章の所有者は、この決定を不服として、IP&IT裁判所と最高裁判所(事件番号862/2561)に上訴した。
最高裁判所は、独特な文字の組合せの登録性を再度認める決定をした。2018年5月に下した判決は、登録官と商標委員会が国際分類の7類と9類での商標出願を拒絶した決定を取消したIP&IT裁判所の決定を支持したものだ。
商標委員会と登録官は、文字「B」、「F」、「t」がスタイライズされていない普通の外観の文字であったため、識別力がないと判断した。
この決定を無効にした最高裁判所は、特定の意味を持つ特定の言葉を構成せず、赤い背景上の3つの文字「B」、「F」、「t」からなる標章であり、スタイライズされていない普通のローマ字とこれらのローマ字とを識別し、顕著にするのに役立っており、このことによって消費者は、この出願人の標章を他の標章と認識して区別することが容易になると判断し、商標法の下で登録を可能にする識別力が十分あると判示した。
これらの判断により、十分にスタイライズされてなく、発音できないローマ字で、単語として組み立てられていないものは、今でもタイの商標登録機関や商標委員会に受け入れられないと推測できる。
文字だけで構成される会社名の頭字語や3文字(若しくはそれ以上)の商標登録を望む企業は、登録を勝ち取るため事前によく戦略を練った方がいいかもしれない。
ブランドオーナーが審査段階で識別力に基づく拒絶を避けたい場合は、十分にスタイライズした標章をデザインする必要がある。これは、裁判所に上訴することなく、文字商標を登録するチャンスを高めたいと望んでいるブランドオーナーにとっては最良の選択肢となるだろう。しかし、所有者がこのタイプの標章をスタイライズしないで登録したいと思ったら、裁判所はよりオープンであると知っていれば拒絶に遭う前に上訴する準備をすることができる。
本文は こちら (Letter Marks in Thailand: Supreme Court Provides Guidance on Distinctiveness)