欧州における商標制度改革については、2015 年 12 月、欧州議会が、共同体商標規則の改 正を含む商標制度改革パッケージ法案について、EU 理事会の立場を承認する立法決議を採 択し、これを受け、この改革パッケージ法案に基づく欧州連合商標規則が、2016 年 3 月 23 日に施行された。EU加盟国(この時点では英国も含む)は、2019年1月14日までにその規定を国内法に置き換えることを義務付けられていた。英国は商標法2018によってこれを達成した。Vanessa Harrowが改正英国商標法の主な変更点を解説する。
写実的表現(Graphical Representation)要件の廃止
これまで英国の商標の定義は、「ある事業の商品またはサービスを他の事業のものと区別することができる、写実的に表現できる任意の標識」であったが、改正法では写実的表現要件を廃止した。したがって、匂い、味、ホログラム、動きなどの非伝統な商標の保護への道を開いた。より広い範囲の商標タイプを可能にしたことは注目に値するが、第三者が標章を理解し識別できるように、標章を明確かつ正確に提示することは依然として求められている。なお、所有者が英国商標を国際出願の基礎とする場合、世界知的所有権機関(WIPO)は現在電子フォーマットを認めていないため、依然として標章の写実的表現が必要であることに留意すべきである。
先行する権利の通知
英国知的財産庁(UKIPO)は、審査プロセスの一環として、審査官が先行する権利があるかどうかの調査を行い、混同を生じるおそれのある商標があれば出願人に通知していた。改正法が施行された後もこの調査は継続されるが、UKIPOは失効した商標について出願人に通知することはなくなる。これは、UKIPOの調査が実施された時点で権利の存続期間を満了した商標が、更新のグレース・ピリオッド内や復活期間内(更新期限から最大12ヶ月)にある場合に潜在的なリスクとなることを示している。Novagraafは、この潜在的リスクを避けるためにUKIPOの調査レポートのみに頼らず、徹底したクリアランス調査を行うことを勧めている。
異議申立における不使用取消、無効請求
異議申立が請求されたとき、異議申立の根拠とする商標が5年以上前に登録されたものである場合、出願人は使用証拠を請求することができ、十分な証拠が提出されない場合、異議申立の根拠はなくなる。このプロセスは変わらないが、改正法では関連する期間の定義が変わっている。以前は、当該期間は異議申立の公開日に終了したが、改正法の下では、その5年間は異議申立をされた商標の出願日(または優先日)に終了する。この変更は、2019年1月14日以降に開始される手続きにのみ適用される。係属中であってもそれ以前に開始された手続きには適用されない。さらに、以前の登録商標の無効請求の場合、被請求人は真正な使用証拠を請求することができ、その使用期間は無効請求手続きの開始日の直前5年間であったが、改正後は、無効の根拠となる登録商標がその出願日から5年以上登録されている場合、無効を請求された登録商標の出願日前5年間の使用証拠となる。
侵害行為
英国の登録商標は侵害行為からの保護を受けることができる。旧法の下では、商標権の侵害を疑われる者がいて英国で登録商標を所有している場合、その登録が無効になるまで侵害訴訟を起こすことが出来なかった。以前、これらの訴訟は同時ではなく連続的に処理されていた。しかし、改正法では、訴訟をまとめて行うことができるようになったため、裁判所は侵害訴訟の中で無効請求を審理することができ、同様に、被告は侵害訴訟手続の中で真正な使用証拠を請求することが可能となった。さらに、以前の商標法は「自己の名称」に対する侵害からの保護を企業や個人に認めていたが、改正法は個人のみ認められる。同様に、登録商標と矛盾する商号または会社名の使用は、侵害を構成する行為として明確に含まれている。変更は2019年1月14日から適用され、遡及的には適用されない。
模倣品
商標の所有者が、模倣品が英国を経由してEUの関税徴収地域外の国に移動していると信じるに足る理由がある場合、その物品を税関当局が差し押さえるよう請求することができる。改正法の下では、立証責任は商品を出荷する人にあり、商標の所有者が目的国で商品の販売を中止する権利を有していないことを証明する必要がある。(たとえば、目的国における登録商標権がないことを示す)。 立証責任が変更されたことは有用であるが、それは商標の所有者が、模倣品が販売される可能性のある市場すべてにおいて商標を登録するための措置を講じるべきであることを意味する。
ライセンス
商標所有者は、単なる契約法ではなく商標法に基づきライセンスの存続期間、標章の使用方法に関するライセンス契約の条項を遵守しなかったライセンシーに対して訴訟を起こすことができる。改正法の下で、通常使用権者は、商標権者の許可がない限り侵害者に対して訴訟を起こすことはできないが、商標権者が侵害者に対して訴訟を起こした場合、ライセンシーが被った損失に対する補償を得るために訴訟に介入することができる。一方、専用使用権者は、商標権者が2か月以内に訴訟を起こすことを拒否するか、又は訴訟を起こさないことを条件に直接訴訟を起こすことができる。
団体商標
団体商標を保有できる団体の定義に、「公法に準拠する法人(legal persons governed by public law)」を含むように拡張された。これにより、法律または設立趣意書によって設立された組織、協同組合、および協会に似た会員構造を持つ組織が、団体商標の出願を行えるようになったことを意味する。同様に、製造者団体、生産者団体、サービス供給団体または取引業者の団体である場合、団体が契約を締結するのに適切な法的地位を有していれば団体商標の出願適格性を持つことになるが、個人は団体商標の出願をすることができない。
辞書に載った商標
辞書や同様の出版物の出版者は、時折、商標を一般名称として誤って認識することがある。登録商標が記載された場合、商標権者は出版物に記載された言葉が登録商標であることを明確にするよう要求することができる。問題が速やかに解決されない場合や印刷物の場合には、次の版が出版される前に、商標権者は裁判所に提訴することができる。裁判所は、是正の命令または印刷物の破棄命令を含む可能な救済について裁量権を有する。
登録商標の復活
商標所有者が更新日から6ヶ月以内に登録を更新しなかった場合、さらに6ヶ月後まで登録を回復することができる。改正法は、復活請求を受理するかどうかを決定するための条件を変更する。所有者は更新をしなかった理由を説明する必要があり、IPOはその理由が「意図的でない」かどうかを判断する。
形状に関する拒絶理由
1994年商標法では、標識が次のもののみからなる場合は,商標として登録されない。(a) 商品自体の性質に由来する形状、 (b) 技術的成果を達成するために必要とされる商品の形状,又は (c) 商品に実質的価値を与える形状商品自体の性質から生じる形状。
改正法では、「形状またはその他の特性(the shape or another characteristic)」という表現に変更になった。それによって規制の範囲を、形状だけではなく商品に固有の特性にも拡張している。
英国政府のガイダンスでは、この拡張された拒絶理由は商標自体の本質に焦点を当てているため、ごく一部の商標にのみ適用される可能性が高いとされているが、そのような拒絶理由の場合、それを克服することは困難になるかもしれず、商標所有者は新しい商標を検討する際にはこの改正について覚えておいた方がよいかもしれない。
本文は こちら (The UK Trade Marks Regulations 2018: what is changing?)