この話は、ウォルマート社が「Backyard Grills」というブランド名でグリルの販売を開始し、ほぼ同時に商標登録を申請した2011年8月に始まった。一方、Variety社は1997年以来、芝生や庭用品分野のサービスで商標「The Backyard」を使用しており、その時点で同社は米国特許商標局(USPTO)に商標出願し登録が認められていた。「The Backyard」商標権を取得した後に、Variety社は、グリルの販売にも「Backyard」と「Backyard BBQ」の両商標を使用し始めた。ウォルマート社は、「Backyard」商標の使用と登録を知っていたが無視して「Backyard Grills」と名付けたグリルの販売を始めた。
Variety社は、ウォルマート社の商標出願に異議を唱え、また商標権侵害および不正競争を理由に地方裁判所に訴訟を提起した。地方裁判所は、Variety 社が登録商標の真の所有者であり、ウォルマート社による「Backyard Grill」の使用は、一般公衆が混同するおそれが高いことを認め、ウォルマート社に対しVariety社に3,250万ドルを支払うよう命じた。ウォルマート社はこの判決を不服として控訴した。
控訴裁判所は、登録商標「Backyard」に3つの問題を提起した。(1)Variety社の商標の強さ、(2)消費者に対する標章の類似性、(3)ウォルマート社が混同を意図したか、である。控訴裁判所は、地方裁判所がウォルマート社の調査証拠を不適切に評価して棄却したとして、地方裁判所の決定を無効とし審理を差し戻した。
2019年2月、裁判所は事件の事実と証拠を審理した。陪審は、ウォルマート社の「Backyard Grill」は、Variety 社の「Backyard」および「Backyard BBQ」商標と一般公衆の間で混同を生じさせるおそれが高いことを認定し、さらに、ウォルマート社はVariety社の商標を故意に侵害しているとの判断を示した。そして、ウォルマート社に対して4,550万ドルの「合理的なロイヤルティ」と、侵害商標の下での販売から得た利益5,000万ドルの支払いを命じた。その結果、Variety社への賠償額は合計で9,550万ドルに膨らんだ。