著名なEU商標は、EU商標法の下でより広い範囲の保護を受けることが出来る。NovagraafのTimo Buijsが、著名性と商標の普通名称化の問題を踏まえて、最近の「Spa」と「Spaaq」の事件を検証する。
「著名な」EU商標(EUTM)がEUの商標法の下でより広い範囲の保護を享受していることはよく知られている。自社のEUTMが広く一般に知られていることを証明できる所有者は、類似する商品やサービスに使用されている同一または混同するほど類似する商標ばかりでなく、類似しない商品やサービスに使用されている類似する商標に対しても対抗することができる。ただし、このような高いレベルの保護は、侵害の疑いのある商標の使用が、正当な理由なく、先行するEUTMの識別性や著名性を損なう場合や不当に利用した場合にのみ適用される。
実務の原則:「SPA」対「Spaaq」
スパ・モノポール(SPA Monopole:ミネラルウォーターブランド「Spa」の所有者)は、ミネラルウォーターおよび炭酸水(32類)を指定した先行する登録商標「Spa」を根拠として、図形商標「Spaaq(写真右)」の商標登録に異議を申立てた。
両商標を比較して、EUIPO(欧州連合知的財産庁)の異議部は、外観的な類似度は低いと判断した。これは、出願商標は図形的な要素で構成されているのに対して、先行する商標は単に「Spa」という文字で構成されているからだ。一方、水の透き通るイメージを与えるために、青い装飾がしばしばラベルに使われることもあり、また、消費者は一般的に、商標を見たとき商標の始まりを注目する傾向があるため、商標の最初の3文字が同じであるという事実は、その支配的な要素が類似に決定的な役割を果たすため、比較する上では重要となる。なお、称呼的には違いは小さく、出願商標の最後の文字「q」の音は文字「k」として発音される。最後に、両商標の指定商品は同じような市場、すなわちミネラルウォーターや他の飲料(32類)に属しており、関連する公衆が商標間を関連づける可能性が高いことを示唆している。
さらに、SPAがミネラルウォーターで名声を得ているため、SPAとSpaaq製品(トイレットペーパー等も含む)とが関連付けられる可能性が非常に高いことを認定し、EUIPOは「Spaaq」がSPAの名声に悪影響を及ぼすと結論付けた。
著名 – それとも普通名称?
商標が著名だということには明らかな利点がある。しかし、リスクもないわけではない。たとえば、対立する標章の使用に対して適切な措置を取らない場合、商標が普通名称化したという理由で脆弱になる可能性がある。著名商標が普通名称になると、保護の範囲が狭まる。したがって、商標の所有者は商標が普通名称になるのを防ぐために何らかの行動を起こすことが重要だ。
ブランド所有者には、自分の商標を正しく使用すること(すなわち、商標を動詞や名詞として使用しない)、外部での商標の使用(例えば、他のベンダー、ライセンシー、ビジネスパートナーなどがマーケティング資料などに「正しくない」使用をしないように)を監視することが求められる。そして、(例えばSPAが「Spaaq」に対して行ったように)潜在的な侵害を伴う使用に対して速やかに行動すること。これを怠った企業は、のれん、商標、ブランドエクイティを不必要に危険にさらしていることに気付かされることになるかもしれない。