2019-05-28

EU一般裁判所による商品の類似性評価について - Novagraaf

「Lumiqs」商標に関する最近の判決は、商品・サービスを対象にした文字表現を採用することの重要性を改めて示した。Florence Chapinが概説する。

Krinner Innovationは、11類と28類で先行する「LUMIX」商標を根拠に、11類の「LUMIQS」商標の登録に異議を申し立てた。
・審判部は、商標間に混同のおそれがあるとの判断を示し、
・裁判所は商品が類似するとはみなすことはできないとの判断を示した

EU一般裁判所は、Krinner InnovationとIQ Group Holdings Bhd間の異議申立における2017年12月12日審判部の判断(Case R 983/2017-1)に関する IQ Group Holdings Bhd 対 EUIPO(欧州連合知的財産庁)の裁判で判決を下した(Case T-133/18、2019年3月19日)。
 裁判所は、判例法に基づき、問題の商品・サービスの類似性を評価する際には、それらの商品・サービスに関連するすべての要因を考慮に入れるべきであるとし、要因には、性質、意図した目的、使用方法、競合性や補完性が含まれ、関係する商品の流通経路など他の要因も考慮に入れることができるとの認識を示した。
 裁判所は、商品とサービスの類似性の評価に関して詳細に論法を展開した。

背景
 2014年4月28日に、出願人であるIQ Groupは、世界知的所有権機関(WIPO)の国際事務局から、以下の商標についてEUを指定する国際登録番号1220053を取得した(右)。
 この商標は、11類で次の商品を指定している。商業用照明装置、LED(発光ダイオード)ランプ、発光型照明器具、照明装置、照明用器具、電球、照明用ケース、天井灯、卓上灯、非常灯、照明用器具用フィルター、ガス灯、ライトバー、光反射器、屋外照明、屋外照明用器具、スポットライト、照明管、監視用ライト、ただし、クリスマスツリーやフェスティバルで使用する照明や照明装置は含まない。
 2015年4月27日、Krinner Innovationは先行する以下の2件の商標を根拠に異議を申立てた:

先行する商標は、文字商標「LUMIX」で2006年8月2日に出願され、2007年10月16日にEUに登録された(No 5236435)。また図形商標の「LUMIX」は2006年8月10日に出願され、2007年9月28日に登録された(No 5236435)。
 両商標とも11類と28類で次の商品を指定している。
 11類:照明装置、すなわちクリスマスツリー用電灯(キャンドルライトのチェーン、装飾用クリスマスツリーライト、ケーブルなしのキャンドルライト、ケーブルなしの装飾クリスマスツリーライト)および低電圧装飾用クリスマスツリーライト
 28類:クリスマスツリー用電飾品(チェーンおよびケーブルなしの装飾クリスマスツリーライト)
 異議申立は、規則207/2009の第8条(1)(b)(現在の規則2017/1001の第8条(1)(b)を根拠にしたものだ(先行する商標との同一性又はそれとの類似性及び両商標の対象とされている商品又はサービスの同一性又は類似性を理由として、先行する商標が保護されていた地域において,公衆の側に混同の虞がある場合。混同の虞には、先行する商標との連想の虞を含む)。 
 2017年3月16日、EU異議部は異議を全面的に支持した。
 2017年5月11日、出願人は、規則207/2009の第58条から第64条(現在の規則2017/1001の第66条から第71条)に従って、上訴した。
 2017年7月14日、11類で出願された商標の商品リストは、出願人の要請により以下のように補正された、「センサ、統合ソフトウェアを組み込んだ産業用のハイベイやミッドベイ照明装置及び産業施設の照明用品。これには倉庫および冷蔵施設を含むがこれらに限定されない。ただし、クリスマスツリーやフェスティバルで使用する照明や照明装置は含まない」。
 2017年12月12日に、EUIPOの第一審判部は審判請求を棄却した。

審判部の決定
 審判部は最初に、関連する領土は欧州連合の領域であり、関連する公衆は、合理的に十分な情報を与えられ、合理的に注意深いと見なされるべき一般公衆で構成されていることを示した。
 審判部は次に、問題の国際登録によって指定された11類の商品は、少なくとも先行する商標によって真正な使用が立証された11類および28類の商品とは間接的に類似するとの判断を示した。目的が異なっていても、問題の商品、すなわち照明を目的として発光する電気的光源は類似しており、同じ消費者を対象とし、同様の事業体によって製造され、同じ流通経路を共有できるとの認識からだ。  

裁判所へ上訴
 裁判を有利に進めるために、出願人は、登録商標によって保護されている11類の商品は、先行する商標による真正な使用が立証された11類と28類の指定商品と同じ性質のものではなく、また、該商品は、オンラインでもスーパーでも、さまざまな地域で売り出されているが、競合するものではなく補完的なものでもないと主張した。さらに、流通経路は共有するかもしれないが、当該商品が同じ出所を示すものと見なす理由はなく、少なくとも両商標が間接的に類似するとした審判部の判断には誤りがあると主張した。(幾つかの指定商品に対する先行する文字商標「LUMIX」の真正な使用は争われていない。すなわち11類の「クリスマスツリー用照明」および、28類の「クリスマスツリーの電気的装飾」について)

一般裁判所の判決
 問題となる商品・サービスの類似性を評価する際には、それらの商品・サービスに関連するすべての要因を考慮に入れる必要がある。 
規則207/2009の第8条(1)(b)が要求する商品の比較は、異議申立の根拠とする先行する商標の登録簿に記載されている保護対象の商品とであり、該商標が実際に使用されている商品ではない。ただし、先行する商標の真正な使用の立証請求があり、先行する商標が登録された商品・サービスの一部に関してのみ使用証拠が提出されている場合を除く。(規則2017/1001の第47条(2)および(3))。
 また、ニース協定に基づく商品・サービス分類は、管理上の目的でのみ利用されることに留意する必要がある。そのため、商品・サービスが同一の分類にあるからとの理由だけで類似するとされることはない。
 本件では、先行する商標の保護は、登録された11類と28類の特定の商品に明示的に制限されており、その権利は、異議対象の商標で引用された11類の商品には及ばない。さらに、後者の商標は、先行する商標が指定する「クリスマスツリー用照明またはそれと共に使用される商品」および「フェスティバル用照明またはそれと共に使用される商品」を明示的に除外している。
 裁判所は、それら商品は意図された目的が異なるとの認識を示した。出願された商標が指定する11類の商品は実用的且つ工業的な目的で使用されるものだが、先行する商標が指定する11類および28類の商品はクリスマスツリーの装飾および審美的な目的にのみ使用される。
 補完的な基準に関しては、補完的な商品・サービスとは、一方が他方の使用に不可欠または重要であるという意味で密接な関係があるものであり、その結果、消費者は、同じ事業主が商品の製造やサービスの提供に責任があると考える。
工業用に使用する電気照明器具の購入するものが、純粋に装飾的な機能を有するクリスマスツリー用の照明や装飾品を必要としないことは明らかであり、クリスマスツリーを飾るものを探している平均的な消費者が、必然的にそして同時に、産業用の照明器具を買おうとすることはありそうもない。
 さらに、それらの商品間に競合関係は存在しないため、問題の商品が同じ流通経路を共有している可能性があるとしてこれらの商品は類似すると見なす必要があるというEUIPOの主張は退けられた。商品が百貨店やスーパーマーケットなどの同じ商業施設で販売されるという事実は、そのような小売店では異なる種類の商品が多く見つかるため、消費者はそれらが同じ出所であると思いこむはずはなく、特に重要ではない。
 したがって、争いのある標識を付した商品は、地理的に近い小売店で販売される可能性があるものの、消費者の視点で見ればこれらの商品間に明確な補完性が生じることはない。これは、問題の商品がオンラインで販売されるときにも同じことが当てはまる。
 Krinner Innovationが提出した証拠は、出願商標を無効にするようなものではなかった。
 問題の商品が特定のWebサイトで互いに隣接して販売されていることを示すためのスクリーンショットに関しても、他の種類の照明とは別に、クリスマス照明と装飾は「クリスマス照明」に関する特定の分野で販売されていた。
 裁判所が示した論法によって審判部の決定は無効となった。

コメント
 この決定は、商品・サービスを対象にした文字表現を採用することの重要性を改めて示したもので、流通経路やオンラインでの商品の販売に関する裁判所の論法は特に興味深い。

本文は こちら (EU General Court sheds light on assessment of similarity of goods)