2019-09-26

中国:登録商標が商号として無断使用された場合の権利行使について - Linda Liu Group

商標権と商号権は、いずれも商品と役務の出所を識別するための重要な商業標章である。実務において、一定の知名度を有する他人の商標を企業名称の中の商号として使うことは珍しくない。具体的な状況に応じてそれに適切な手段を講ずるのと同様に、様々な侵害形式については、それぞれに相応する法律条項に基づいて規制すべきであり、権利行使の際にも侵害情状の軽重及び具体的な状況に基づき、最適な権利保護の対策を取るべきである。

1、侵害形式と関連法律規定、及び侵害認定の考慮要素

企業名称において、先行商標と同一又は類似する商号を際立てて使用する行為について、「商標民事紛争事件の審理における法律適用の若干の問題に関する最高裁判所の解釈」第1条では、当該行為が商標権侵害行為に該当し、商標法に基づいて規制することができると規定している。当該条項は、商品において商号を使用する時に、規範的に使用すべきであり、際立てて使用してはならないことを規制している。「際立てて使用する」とは、主に商品に
企業名称を表記する際に、商号部分の字体、大小、色彩及び排列が企業名称の中のその他の部分より顕著であることをいう。

先行商標と同一又は類似する商号を登録し、使用する行為については、主に「不正競争防止法」第2条に規定する信義誠実の原則に基づいて規制している。当該条項に基づき、商号の不正登録・使用の行為を根本的に解決することができる。

また、「馳名商標の保護に係る民事紛争事件の審理における法律応用の若干の問題に関する最高裁判所の解釈」第2条に基づき、仮に先行商標が馳名商標に該当し、他社の企業名称が馳名商標と同一又は類似する場合、商標権侵害又は不正競争に係る訴訟を提起することができる。

後から登録された商号権が他人の先行商標権を侵害するか否かを認定する要素には、主に先行登録商標の知名度、後から登録された商号権者の主観的な悪意の状態、企業名称の使用方法、際立てた使用の有無などがあり、最終的には上記の要素を総合的に考慮した上、混同・誤認をもたらすか否かにより、権利侵害に該当するか否かを認定する。「混同・誤認」とは、主に関連公衆に製品又は役務の出所に対する誤認をもたらすか否かのことをいうが、実務においては、主に裁判官の主観的な認識及び先行商標の知名度などの複数の要素に基づいて認定する。

2、権利抵触の取扱方法及び解決ルート

先行商標と同一又は類似する商号を登録し、使用する行為について、商標権者は被疑侵害者に対して、使用の停止・変更・規範化、損害賠償などの民事責任を負うことを求めることができる。長期間にわたる弊所の権利保護の経験によれば、下記の複数のステップに基づいて関連紛争を取り扱うことができる。

◆ 「警告と交渉」
通常、権利侵害の事実が比較的はっきりし、情状が深刻でない侵害行為について、警告と交渉の手段を通じて解決することができる。一部の権利侵害者は自ら企業名称を登録する際に、権利者の先行商標が存在することを明知しながら、あわよくばの心理で「ただ乗り」を図っているものの、権利者より権利侵害警告を受け取った後、プレッシャーに迫られ、権利者の関連要求に同意することがある。弊所はかつて乳酸菌乳飲料業界で比較的有名なブランドの代理人として、A社が無断で依頼人の知名商標と同一の文字を自社の商号として登録し、使用した被疑侵害行為について警告書を発送したことがある。交渉を通じてA社は、自ら負うべき権利侵害のリスクを認識し、警告書を受け取ってから数ヶ月以内に、自社の商号を弊所依頼人の商標と完全に異なる商号に変更した。しかし、一部の侵害者の中には比較的頑固な者がいて、自社の企業名称が合法的な手続を経て登録されたものであるため、いかなる侵害問題も存在しないと言い張っている場合もある。このような場合にはさらなる権利保護措置を取る必要がある。

◆ 「行政摘発」
仮に警告と交渉を経ても問題が解決できなかったり、又は権利侵害の情状が比較的深刻であることに鑑み、商標権者が権利侵害者に対して、相応の処罰を科すことを望む場合、行政摘発を講じることも頼もしい。数年前の行政摘発の実務においては、通常、被疑侵害製品について、現場で侵害製品の在庫を差し押さえると同時に、工商行政管理局の力を借りることにより、工商行政管理局が主導的に商号権者を説得し、自発的に商号を変更させることが多かった。この数年間、行政摘発の実務上、工商行政管理局の法執行レベルは益々高まりつつあり、被疑侵害製品の存在を通さずに、他人の先行登録商標を商号として登録し、使用する行為があって、当該行為が侵害行為に該当するとさえ認定できれば、侵害者に対して侵害該当内容を説明し、商号を変更させることができるようになっている。注意を払うべきところは、2018年の機構改革を経て、一部の市場監督管理局内部の管轄分担がさほど明確ではない状況があり、一部の侵害行為が二つ以上の部署に及んでいる可能性もあるため、行政摘発を申請する前に、予め電話で管轄部署を確認することである。かつて取り扱った数件の商号紛争案件において、弊所は事前準備を経て十分な権利侵害及び知名度に係る証拠を提出し、かつ弁護士が十分な解釈・説明を行なっていたため、市場監督管理局から商標権者の権利行使に対する積極的な協力を得ることができ、最終的に当局の力を借りることにより、後の商号権者に商号を変更させることができた。

しがしながら、各市場監督管理局の法執行レベルと能力は、それぞれ違っており、すべての市場監督管理局がいずれも積極的に権利者のために協力し、商号変更の目的を実現してくれるとは限らない。特に、被疑侵害商号と先行商標権が完全に同一ではない場合、市場監督管理局の局員として、権利侵害を認定しかねる状況もあり得るため、当該状況では訴訟手段を取る対策が必要となる。

◆ 「民事訴訟」
侵害情状が悪辣で、類似という認定が比較的曖昧な行為について、たとえ警告書を発送したり、又は行政摘発を提起したとしても、理想的な結果を得るとは限らない。この場合に当たって、商標権者は民事訴訟を提起する方法により紛争を解決することができる。確かに民事訴訟に掛かる時間と金銭のコストは比較的に高いものの、訴訟を通じて、商号紛争の解決を確保することができる。仮に権利侵害又は不正競争に対する判決が言い渡された場合、裁判
所は被疑侵害者に対して、指定期限内に企業名称変更の手続を行うことを命じることができる。しかも、権利者は案件を通して馳名商標認定申請を試みることができると同時に、損害賠償金を求めることもできる。現在、知的財産権に対する保護は益々重要視されつつあり、権利者がややもすれば数百万元の損害賠償金を求めたことは、すでに過去の話となっている。一層高い損害賠償金を求める場合、商標権者としてはより多くの知名度関連の証拠及び被疑侵害者の不当収益関連の証拠を収集し、保全する必要がある。