オンラインで権利侵害が特定されたとき、ブランド所有者の次の課題は、どの国の裁判所で訴訟を進めるかを決めることだ。最近の欧州連合司法裁判所(CJEU)による判決は、商標権者に幅広い選択肢を与えることで、オンライン上の商標権侵害に対する選択肢を広げることになった。Casper Hemelrijkが解説する。
EU商標規則により、EU加盟国はEU商標訴訟を管轄する国内裁判所を限定した。これらの裁判所は、該加盟国で侵害行為が行われた場合、またはその虞がある場合に管轄権を有する。ただし、これは、侵害行為やその虞がある行為が行われた加盟国を特定できるかどうかがあまり明確ではないオンライン上の権利侵害では簡単に適用できない。最近のCJEUによる判決はこの問題を明確にした。
紛争の背景
音響システムの設計及び製造する英国のAMS Neveは、標識「1073」を付してオーディオ機器を製造・販売しており、欧州商標として登録している。AMS Neveは、模倣品を販売したとしてスペインのオーディオ機器の再販業者であるHeritage Audioを商標権侵害で提訴した。
この訴訟は、英国で商標問題を審理する知的財産企業裁判所(IPEC: Intellectual Property Enterprise. Court)に持ち込まれた。しかしながら、Heritage Audioは、問題の商品が英国で購入された可能性はあるものの、同社は英国内で宣伝広告し販売したことはないという根拠に基づいて、裁判所の管轄権に関して異議を申立てた。
IPECは慣行に従い、侵害行為が行われた加盟国が管轄権を有するべきであるとの判断を示した。言い換えれば、問題の商品を広告宣伝し販売するために標章が使用された国で審理されるべきというものだ。Heritage Audioはスペインに拠点を置き、そこでWebサイトを運営しているため、IPECはスペインの裁判所が管轄権を持つとの判断を示した。
AMS Neveは、イングランド・ウェールズ上法院に上訴し、上訴院は事件の潜在的な影響を考慮し、管轄権の問題に関する予備判決をCJEUに依託した。
裁判所の選択肢を広げる
CJEUの判決は、商標権者にとって朗報となった。以前は被告の所在地に焦点が当てられていたが、今回の判決は、事実上消費者の所在地に焦点を移した。CJEUは、最終消費者または業者が商品にアクセスできるようになったときに侵害行為が行われたと判断した。その結果、管轄権は、ウェブサイトと商品がオンライン上に配置された地域に限定されず、対象となる消費者がいる場所となる。
英国の消費者はHeritage Audioの対象顧客であり、オンライン上で広告宣伝された商品に触れていたため、英国でも侵害行為が行われていた。この新しい考え方だと、IPECはこの問題を審理する管轄権を有しており、AMS Neveはスペインの裁判所に提訴することを強制されない。解釈を広げることで、商標権者にとってオンライン上で侵害を受けた場合に保護を求める選択肢が広がったことになる。