Hindustan Times Media Limited(以下、「HT」)は、1924年からインドで日刊紙「Hindustan Times(ヒンドゥスタン・タイムズ)」を発行しているニュース・メディアで、世界的にも高い評価を得ている。HTは、16類に「Hindustan Times」、「Hindustan」を商標登録しており、www.hindustantimes.com、www.hindustan.inなどのドメインの所有者でもある。
HTは、ニューヨークに本拠を置くBrainlink International Inc.(以下、「Brainlink」)がドメイン名www.hindustan.comを所有していることを発見し、デリー高等裁判所に訴提した。
2019年12月、HTはBrainlinkに商標権侵害を止めドメイン名をHTに譲渡するよう求める通知を送った。それに対してBrainlinkは、ドメイン名の譲渡を検討する条件として300万ドル要求し、ニューヨーク東地区連邦地方裁判所(以下、「ニューヨーク地裁」)に商標権非侵害の確認を求める訴訟を提起した。
HTは、1999年インド商標法第134条(2)に基づき、登録された所有者は、事業を行っている管轄権で侵害訴訟を起こすことができるとし、ネット上で「Hindustan」を検索したデリーのユーザーは問題の侵害ドメインに誘導されてしまうため、デリー高等裁判所はこの問題を管轄するとして、BrainlinkがHTのグッドウィルに便乗してニュース放送に使用するために、1997年に悪意を持ってドメイン名を取得した上で、ドメイン名をHTに販売する目的で法外な金額を要求したことでBrainlinkが「サイバースクワット」であることが明らかになったとも主張した。HTは、商標権とドメイン名の侵害に対する差止命令だけでなく、Brainlinkがニューヨーク地裁で提起した訴訟を阻止することも求めた。
2020年4月28日デリー高等裁判所はHTの主張を認め、2000年以来Brainlinkが当該ドメイン名を合法的に使用しておらず、HTから利益を得るためだけにそのドメイン名を取得したとの認識を示した。米国ではHTによる商標権の主張(assertion)がなかったため、米国で提起された訴訟は抑圧的(oppressive)なものであると裁判所は見なした。したがって裁判所は、Brainlinkに対する訴因は合理的な疑いを差し挟まない程度に真実らしいものであり、ニューヨーク地裁におけるHTに対する商標権非侵害確認訴訟の暫定的な一方的差止を認めた。