Gömböc(訳者注:ハンガリーの数学者が発明した「起き上がりこぼしのようにひとりでに起き上がる均質な立体」)について、欧州連合司法裁判所(CJEU)は、EUでの商標登録に関するいくつかの興味深いガイダンスを提供した。Frouke Hekkerが解説する。
製品やパッケージの形状などの図形的な標識は、EUで商標として保護を受けることができる。ただし、技術的成果を得るために必要な商品の形状や商品の審美的または機能的な特徴は、企業に独占的に保護を与えることを現実的に困難にするため登録の除外理由になっている。
次に記載する事項のみを構成要素としている標識はEUTM(欧州連合商標)として保護されない。
1)商品そのものの性質から生じる形状又はその他の特徴
2)商品に本質的価値を与える形状又はその他の特徴
3)技術的成果を得るために必要な商品の形状又はその他の特徴
これらの拒絶理由に当たらない形状のみが商標保護を受けることができるが、識別力がある場合に限ることは言うまでもない。
Gömböc:幾何学装飾形状の保護
2015年、GömböcKutatóとSzolgáltatóésKereskedelmi Kftが14類と21類(装飾品)及び28類(おもちゃ)を指定して数学理論に基づいたGömböc形状(右図)をハンガリー知的財産庁に出願したが、形状が技術的成果を得るために必要なものであり、形状が商品に本質的価値を与えているという2つの理由により登録を拒絶された。この物体は技術的成果によりどのような力を加えても常に元の位置に戻るもので、様式化された魅力的な構造的特徴による本質的価値があると知財庁に判断された。
その後の法的手続きを経て、ハンガリーの最高裁判所は欧州連合司法裁判所(CJEU)にガイダンスの提供を求めた。質問内容は以下のように要約できる。
* 形状が技術的成果を得るのに必要かどうかを出願商標における標識のグラフィック表現のみで評価を行う必要がある場合、関連する公衆の認識が評価を左右するか?
* 当該形状に関連する公衆の認識や当該形状の評判に関する知識は、商品に本質的価値を与えるかどうかの拒絶理由を評価する上で有効か?
* 仮に、形状が意匠(登録意匠)として保護されている場合、その形状が審美的価値を意匠に与えているとして、商標保護の対象から除外する必要があることを意味するか?
CJEUのガイダンス
2020年4月27日、CJEUは次のようなガイダンスを示した。
* 技術的成果を得るために必要な形状かどうかの評価は、標識のグラフィック表現に限定する必要はない。関連する公衆の認識に関する情報も、調査や専門家の意見、科学的出版物などの客観的で信頼できる情報源からのものであれば有効である可能性がある。
* 形状が製品に本質的な価値を与えるかどうかの評価では、その形状の本質的な特徴を特定するために、関連する公衆の認識や知識を考慮に入れることができるが、関連する公衆が問題の商品を購入するかどうかの判断にその特徴が大いに関わっていることが客観的で信頼できる証拠により明らかな場合にのみ、この拒絶理由を適用できる。また、CJEUは、技術的品質や製品の評判などのように、その形状に関連しない製品の特徴は重要ではないと強調している。
* 標識が意匠法に基づいて保護されていても、その形状が当該製品に大きな価値を与えているとは限らない。CJEUは、意匠登録に関するEU法の規則と商標登録に適用される規則は体系的に独立しており、装飾品の形状のみで構成される標識について、自動的に該形状を商標として除外すべきであるということにはならないとの認識を示した。これは、この種の商品の本質的価値がその形状以外の要因からも生じる可能性があるためで、ケースバイケースで評価する必要があるためだ。
ただ、このガイダンスがGömböcの装飾形状に対してどういう意味を持つのかはまだ分かっていない。最終決定が下されたら報告したい。