事件の背景:
テンセント社のゲーム「王者栄耀」は2015年10月23日に正式に発表され、同年10月26日にリリースされると短期間でたちまち最も人気のあるモバイルゲームの一つとなり、アップル社製スマートフォンではリリース当日にアプリストアの無料ゲームダウンロード数で首位に立った。同年11月8日には全国eスポーツオープン選手権に選出され、また1日当たりのアクティブゲーマー数は450万に達し、関連公衆の間では知名度が高い。
この事件における係争商標第18379954号「王者栄耀」は、貴州問渠成裕酒業有限公司が2015年11月19日に第33類「酒類:果実酒:ぶどう酒」等商品を指定商品として出願し、2016年12月28日に登録が許可された。同社はこのほかにも第33類、第41類において複数の「王者栄耀」に関する商標を次々と出願し、さらに「貴州王者栄耀酒業有限公司」を設立した。
2018年6月19日、テンセント社は、旧・国家工商行政管理総局商標評審委員会に係争商標の無効審判を請求し、同委員会は2019年2月22日に係争商標の登録を維持する裁定を行った。テンセント社は当該裁定について本件行政訴訟を提起した。
法院の認定:
本件合議庭は、本事件において、「商標法」第32条に基づく当方の主張を支持し、次のように判断した。
1.「王者栄耀」ゲームはリリース当初に短期間で比較的高い知名度を獲得し、係争商標の出願日前にはすでに関連公衆の熟知するところとなっており、「王者栄耀」は作品名称として先行権利を保護することができる。
2.「王者栄耀」ゲームは日常娯楽の範疇にあり、その関連商品は通常、飲料・食品・日用品などさまざまな分野が対象となり、原告の証拠を踏まえると、「王者栄耀」の作品名称の知名度の範囲は日常生活分野に及び得る。
3.係争商標が登録を許可された第33類「酒類:果実酒:ぶどう酒」等商品もまた、日常生活分野の商品であり、ゲーム視聴者との重複度が比較的高いため、こうした商品上における係争商標の登録及び使用は、当該商品とテンセント社に特定の関係があるとの誤認を容易に関連公衆にもたらし、テンセント社が先行作品名称に基づき享受する市場の優位的地位及び取引機会に割り込むものとなる。
4.また、前述の知名度の状況及び視聴者の状況、並びに第三者による複数件の関連商標出願の事実を踏まえると、第三者による係争商標の出願には主観的な悪意がある。
上述により、北京知識産権法院は2020年6月17日、係争商標の登録出願がテンセント社の先行作品名称「王者栄耀」が享受する先行権利を侵害し、「商標法」第32条の規定に違反することを認定する一審判決を下した。判決により、訴えを受けた裁定が取り消され、国家知識産権局が改めて裁定を行う。
典型事例の意義:
本事件は、北京知識産権法院が6月19日に行った「作品名称の先行権利保護関連事件の審理状況に関する記者会見」において、典型事例として解説された。