2020年6月22日現在、タイに於いて20,368件のマドリッド出願があり、2018年と2019年だけで、海外からタイで出願された商標の約60%がマドリッド制度を利用したものだ。タイがマドリッド協定議定書に加盟して3年目を迎え、ブランド所有者がマドリッド制度かタイへの直接出願かの2つのルートのどちらを利用するかを決定する際に考慮すべき実務的なポイントを解説する。
マドリッド出願受理官庁
マドリッド出願受理官庁(DIP:知的財産局)は、マドリッド制度を利用した国際出願を受理し審査する。DIPは、国際事務局(WIPO)から通報を受けると、出願番号を割り当て、出願人名と指定商品・サービスのリストを翻訳し、マドリッド議定書加盟宣言に基づいて18ヶ月以内に登録可否を判断する。
DIPが拒絶理由がないと判断した場合、国際出願を商標公報に掲載し、異議申立がなければ保護認容声明(statement of total grant of protection)を発行する。しかし、拒絶理由が発見された場合、暫定的拒絶をWIPOに通報し、WIPOはそれを出願人に送付する。これに不服の場合、出願人は90日以内に現地代理人を選任し応答することができる。
暫定的拒絶
IPベース・ソフトウェアが収集した統計によると、2017-2018年間にタイを指定した国際出願商標の85%以上が暫定的拒絶を受けており、拒絶の多くは商品やサービスの記載の曖昧さを理由にしたものだ。タイはニース協定には加盟していないが、商品・サービスの審査基準資料としてニース分類を指針にしていることに注意する必要がある。
DIPは、商品・サービスを明確かつ簡潔に記載するよう求めており、「すなわち(namely)」や「含む(including)」などの表現を認めていない。複数の商品やサービスを含む長い記載は、項目ごと(item-by-item)に分割して記載することが求められている。以下に、商品・サービスのマニュアルで認められた記載と認められなかった記載の例を示す。
拒絶例 | 登録例 |
Telecommunication devices (指定範囲が広すぎる) |
Smartphones |
Retail services connected with the sale of perfumes, beauty products, toiletries, candles, tableware, cutlery, machines for household use, hand tools, lighting, jewelry, watches. goods in precious metals or coated therewith…(記載が長すぎで、多くの項目を含んでいる) |
Retail services for clothing; |
一旦登録されると、出願人の名前をローマ字で、商品・サービスのリストを英語で記載したタイ語の商標登録証明書が発行され、選定された現地代理人に送付される。
マドリッド経由 | 国内出願 | |
現地代理人 |
出願では必要ないがオフィスアクションへの応答では選任する必要がある |
全ての段階で必要だが、委任状は一度で良い |
ファーストアクションまでの平均期間 |
17-18か月 |
14-15か月 |
暫定的拒絶への応答期間 |
暫定的拒絶通報の発行日から90日以内 |
拒絶命令受領から60日以内 |
マドリッド制度は、複数の国・地域での商標権の取得・維持を低コストで効果的に行うことができるため、ブランド所有者にとってメリットがある。しかし、タイの場合は、拒絶される可能性が高いことを認識した上で、より費用対効果の高い方法でブランド保護戦略を練ることが重要である。