タイ政府は、オンライン上で急増する知的財産権侵害に対応するため、2017年に知的財産権侵害コンテンツを含むウェブサイトへのアクセスをブロッキングするオプションを権利者に与えるコンピュータ犯罪法(CCA: Computer Crime Act)の改正を行った。しかし、その後の数年間で改正CCA第20条第3項の規定に基づいたウェブサイトのブロッキング措置を求める商標権者はいなかった。
ここでは、Tilleke & Gibbinsが支援したCCA第20条第3項に基づいたオンライン上で商標を侵害しているウェブサイトに対する法的措置について簡単に説明する。これはタイにおける初めての事例である。
改正CCA発効後、知的財産局(DIP)に90件以上の告発があり、50以上のウェブサイト、1,400以上のURLがブロックされた。しかし、確認する限り、これらは主に映画や音楽産業に関連した著作権侵害の告発であって、商標権者がオンライン上の商標権侵害を告発した事例はなかった。
カメラと光学技術を専門とする日本の多国籍企業である当事務所のクライアントから、クライアントの商標を付した車載カメラ(dashboard camera)を販売しているサイトについての相談が持ち込まれた。当事務所は、侵害サイトの即時閉鎖を目的として、サイト運営者、サイト登録者、販売者に対して侵害停止要求状(cease and desist letter)を送付するなどの措置を行い、関係者との調整を試みたが一向に埒が明かなかった。
時の経過と共に、他にも同様の侵害サイトがいくつか目に付くようになり、クライアントの継続的な商標権侵害対策として、従来の方法では上手く対応できないように思われたため、当事務所はクライアントに対してCCAで規定するウェブサイトのブロッキング対策を検討するよう助言した。
CCA第20条第3項は、商標権者が関係当局にウェブサイトのブロッキングを請求できるが、これまでにこの法的な選択肢を利用した者はいなかったため、この措置は未検証であった。商標権侵害事件でこの戦略が利用されなかったことで、DIPの担当者は懸念を抱いていた。当事務所はDIPの担当者に何度か相談し、最終的には警察に告発することなく、2020年1月23日に直接DIPに商標権侵害を訴えた。この告発は、商標権侵害事件に関してDIPに直接提出された初めてのものとなった。
DIPの局長は、慎重に検討した結果、クライアントの商標を付した車載カメラを無断で販売する行為は、商標法(B.E.2534(1991))第108条で規定するクライアントの商標権を侵害する行為であるとの見解を示し、この問題をデジタル経済社会省(MDES: Ministry of Digital Economy and Society)に送り、更なる対応を求めた。大臣の承認を受けた後、MDESの担当者は、裁判所に侵害サイトのブロックを請求した。その後、裁判所はウェブサイトへのアクセスのブロックを許可し、クライアントの商標権を侵害しているウェブサイトを停止させることができた。
この最初のケースは、タイにおけるオンライン上の商標権侵害において、CCAの下でウェブサイトをブロッキングする措置が有効であることを示した。このことは、著作権者や商標権者だけでなく、製品やサービスのオンライン上の侵害を排除し、貴重なブランドや知的財産を保護したいと考えている他の知的財産権者にとっても意味のあるものになった。知的財産権の保護におけるこの新しいツールは、オンライン上の侵害行為に対して権利行使しようとする者に効果的な可能性を新たに提供するものだ。
本文は こちら (The First Case against Trademark Infringement under Thailand’s Computer Crime Act)