本田技研工業株式会社(以下、ホンダ)とマイクロソフト株式会社(以下、マイクロソフト)は、国際的な有名ブランドで、ほとんどの消費者はこれらのブランドを目にする業界を知っている。マイクロソフトは創業以来、コンピュータやソフトウェアの事業を行っているのに対し、ホンダは自動車業界である。したがって、これら2つのブランドが商標紛争でなぜクロスオーバーしたのか疑問に思うかもしれない。
2020年8月31日、ホンダは「POWER YOUR DREAMS」というマイクロソフトの商標出願に対して、米国特許商標庁(USPTO)審判部(TTAB)に異議を申立てた。マイクロソフトは、ビデオゲーム機を含む第28類の商品を指定して商標登録を申請した。一方、ホンダは第7類と第12類を指定した「THE POWER OF DREAMS」商標を所有している。ホンダは、このキャッチフレーズを主要なブランディング活動の一環として使用し始め、今ではほとんどすべてのプロモーションや広告コンテンツで使用しており、ホンダ独自のものだと主張した。
この問題がねじれているのは、ホンダとマイクロソフトが既に締結済みのライセンス契約で、ホンダはビデオゲームの画像で当該商標の使用についてマイクロソフトに許可していたからだが、ホンダは、ライセンスした商標に加えて、マイクロソフトが「POWER YOUR DREAMS」という欺瞞的に類似したキャッチフレーズを使用した場合、ユーザーにホンダの商標を想起させ、商標「THE POWER OF DREAMS」の希薄化を招く虞があるとして異議を申立てた。
この商標紛争から得られる重要な教訓は、権利者がライセンス契約を締結する際、または商標・意匠・著作権等の使用を認める契約を締結する際に、その知的財産権を保護し、使用権者やそのユーザーが自社の権利に欺瞞的に類似する知的財産を使用しないようにするための合理的な制約を契約に盛り込まなければということである。知的財産を使用する当事者は、権利者であれ使用権者であれ、消費者が知的財産の出所を正確に認識できるようにしなければならない。