商標ウオッチングは、主に権利者が他人による冒認出願行為や侵害行為から自社のブランドを予防的に保護するための有効な手段の一つであり、また、費用面でそれほど高くないため、コストパフォーマンスの良い手段でもある。本稿で弊所の実務経験を踏まえ、商標ウオッチングの重要性について説明したいと思う。
●商標における各種の悪意出願行為は要注意
近年、中国政府は商標の抜け駆け出願、使用を目的としない不正な出願行為を厳しく規制しており、上位法の「商標法」および「商標法実施条例」は言うまでもなく、2019年国家市場監督管理総局発の「商標登録出願行為の規範化に関する規定」、2021年3月から始まった「悪意による冒認出願行為の規制の特別プロジェクト」などによって各種の商標侵害行為の続出を一定の程度に抑えたが、通常の商標ウオッチングをしないと発見されにくい例もある。
①異常な大量出願の行為
実務上、仮に同じ出願人名義の下に、他人のブランドと同一又は類似する商標を大量に出願している場合、官庁から「異常な商標出願」との理由で拒絶されるケースが少なくなかった。それにもかかわらず、一部の不正者が官庁の審査および規制を回避するために、異なる出願人を丸め込み、出願人ごと10個以内の冒認商標に抑えて出願する、というようなことを発見したことがある。
②有名商標を分割して出願する行為
ワインブランドのラフィット(Lafite)に対応する中国語名称は「拉菲」となり、中国で商標登録されている。ある企業は酒類の33類において「拉伝」と「菲承」をそれぞれ登録した。しかし、商標を右図のように使用し、消費者に「拉菲の伝承」と誤認させてしまった。
上記したような悪意出願行為に一定の隠蔽性があるため、つねに商標ウオッチングでチェックしないと、侵害行為をなかなか発見できない。
●商標審査制度で万全にできない所があるから、商標ウオッチングで補おう
各国の知財制度には原則的な共通点が多いが、国情および市場によってスペシフィックな規定もある。例えば、中国の商標審査制度では、日本のひらがなとカタカナについては、実際の意味を考慮せず、図形商標として扱われているが、実はこの規則に諸刃の剣になるところもある。
例①:調べたところ、これまでは、商品の一般名称であっても日本語仮名で出願されたので登録された例がたくさんある。33516059号「アルコール&図形」(3類の石鹸など)、41215539号「うまい」(29類の牛乳、肉など)、41430090号「おやつ」(30類の飴、パンなど)など。
例②:一方、一般名称を日本語仮名で出願されたが、審査時に対応する意味が考慮され、拒絶されたケースもある。22114198号「メガネクリーナー」は第3類の「消臭剤、化粧品など」に指定して出願されたが、商標と関係深い「洗剤、研磨剤など」の商品が部分拒絶査定された。その後の不服審判決定により、「メガネクリーナー」の意味は眼鏡の洗剤になるので、3類の洗剤、研磨剤などにおいて使用されると、商品の機能、用途などを表しており、商標法11条1項2号に違反する、という。
例③:一般名称を日本語仮名で登録されたが、同業者の利益を損なうため無効にされた例もある。浙江省のある水産会社は29類の「水産缶詰、加工済のひじきなど」を指定して、2006年に第3920376号「HIJIKI」、2007年に第4525535号「ひじき」の商標権を取得した。2010年に同業のある会社は「HIJIKI」名称は輸出会社がよく使うひじきの一般名称である」との理由でその2商標に対して無効審判を提起した。最後に、最高裁判所((2012)浙知終字第99号)は、「「HIJIKI」名称は、紛争商標の出願前に既に浙江省でひじき商品を取引する同業者の間で一般名称になった」と判断し、同業会社の主張を支持した。その後、第4525535号「ひじき」も無効された。
要するに、中国商標審査制度によって例①のような登録商標がたくさんある一方、中国の審査官は一定の自由裁量権限があるので、現行規定に違反しない限り、例②のようなケースが出る可能性もある。また、例③のように、日本語仮名商標と実際な意味の単語が一致することを証明できれば、先行商標が無効又は取消される可能性もある。従って、上述した中国における日本語仮名の商標の特徴を踏まえて、常に商標ウオッチングするのが必要ではないかと思う。
●「日本製」とは質の良いものの別称になるが、相応する知財保護もより重視すべき
以前に、中国観光客の「爆買い」が日本で話題になったが、中国消費者は日本製品の質を信用していることの証でもあると言えよう。不正者らもこのことをよく知っているので、日本ブランドを冒認出願するケースが少なくなかった。ここで2例をあげてみよう。
例①:まだ中国市場への進出計画がないので商標登録を見送ると思ったり、又は中国でA商品だけを販売するから、ほかの業務に関する商標登録が要らないと考えたりする日本企業があると思われるが、このような企業こそに商標ウオッチングが必要だと思う。
美容製品で知られているMTG社の「Refa」が中国で非常に人気だったが、MTG社は当時に中国でその商標権を取得しなかった。その後に、寧波のある会社に美容製品と関係ある1類~11類で「Refa」が取られてしまい、MTG社の権利取得コストに大きな障害となった。
同じ美容関係で知られている山野愛子美容室は、中国でコアブランドの商標権を3、5、35類などで取っているが、指定商品がすべての類似群を占めていない。2019年から山東のある会社は「山野愛子」、「yamano」などの商標を同じな3、5、35類の違う類似群と10類の医療器械や美容機械などにおいて権利を取得してしまった。
例②:日本企業アシックス社は1982年に中国で靴類に「右図商標(上)」を登録した。2010年、荘燕氏は靴類に「右図商標(下)」を登録し、その後に当該商標を他社にライセンスした。中国商標審査規則によって、両商標は類似商標に該当しないと判断されていた。その後に、アシックス社は侵害商品を発見し、権利侵害者および上記紛争商標に対する権利行使に8年間もかかった。その主な理由とは、アシックス商標と紛争商標ともが有効な登録商標であり、侵害品販売者も合法的なルートで紛争商標のライセンスを取得したため、侵害行為の認定を巡って争議が生じた。
上記2例は商標ウオッチングの重要さを証明する好例だと思う。手遅れの話になりかねないが、商標ウオッチングをすれば、冒認商標の初歩査定公告期間での異議提起、または登録査定直後の無効審判請求、という二つの節点で早期に対応策を取れるはずであろう。
(弁護士・商標代理人 徐伝梅、商標代理人 石聡)