COVID-19パンデミックに伴う電子商取引の拡大により、オンライン市場でのブランド保護に再びスポットライトが当てられている。Markus Rouvinen氏は、最近の判例からブランドオーナーが電子商取引のプラットフォーム上で権利を保護するための新たな方法の必要性について指摘している。
オンライン市場は、多くのブランドオーナーにとって炭鉱のカナリアのようなもので、偽造品や並行輸入品の販売から、より新しいタイプの侵害や不正競争に至るまで、深刻な問題が最初に浮上するのは電子商取引のプラットフォームだ。
実際、多くのオンライン市場で商品の保管、梱包、発送、マーケティングにおける新たな脅威が出現している。
どのような場合にオンライン市場で侵害者となるのか?
2020年4月に「Coty対Amazon」事件でEU司法裁判所(CJEU)が下した判決は、プラットフォーム上で販売者に注文履行サービスを提供しているオンライン市場は、たとえ保管している商品が侵害品であることが判明したとしても、(一般的には)EU商標規則(EUTMR)第9条(3)(b)に基づく商標侵害と見なされないことを明確にしたものである。
しかし、本件の結果には直接関係しないものの、裁判所は代替手段によるオンライン市場での注文履行が直接責任を生じさせるかどうかについて重要な識見を与えた。具体的には、裁判所は、オンライン市場によって販売者が侵害的な方法で商標を使用することが可能になった場合、その役割は、Eコマース指令第14条(1)(ホスティングプロバイダの免責)や(侵害者に対する差止命令の発出に関する)施行指令第11条の最初の文などの法規則の観点から検討されなければならないと指摘した。
これらの規則が共に言及されている(パラグラフ 49)ことは、免責の対象外であるオンライン市場の事業者が施行指令の目的上、侵害者となる可能性を示唆している。(オンライン市場が直接商標を侵害する可能性は排除されているように思われるが、EU加盟国の国内法の下でオンライン市場の事業者が侵害者としてみなされる可能性はある)。
同指令の第13条で、侵害者が故意または知りうると判断できる合理的理由により侵害行為を行った場合に知的財産権の所有者が損害賠償を受け取る権利を規定していることは非常に興味深い。プラットフォームが、(広告や顧客からの問い合わせへの対応は言うまでもない)保管だけでなく、製品の包装、ラベル付け、発送を含む仕組みを提供する場合、プラットフォームは、侵害品の掲載や関連製品の管理や宣伝を伴う積極的な役割を担うことになり、その結果、このようなオンライン市場は、もはや Eコマース指令の免責の恩恵を受けることができないものと思われる。
さらに、「Coty対Amazon」事件の法務官意見(AG Opinion)で示されたように、Amazon が「Fulfilled by Amazon(販売元は別だが発送はAmazon)」製品のマーケティングにどの程度関与しているかについて、仕入れた製品の合法性を確認する際に特別な注意を払うことが期待されると考えるのが妥当であると思われる。このことは、侵害品が「Fulfilment by Amazon」に類似した仕組みを採用しているオンライン市場で販売されている場合、被害を受けた知的財産権者は、侵害者である販売者に対してだけでなく、プラットフォームに対しても損害賠償を請求する権利を有する可能性を示している。
オンライン市場における商標の混同
オンライン市場が直接責任を問われる可能性があるもう一つの分野は、侵害行為がプラットフォーム上の販売者によって行われるのではなく、検索機能を含むオンライン市場自体に起因する場合だ。これらの検索エンジンは、検索文字と商品説明に使用されている語を一致させるだけでなく、検索文字に「最も関連性のある」商品を表示するように設計されたアルゴリズムに基づいて、顧客の問い合わせに対応するものが多い。これらのアルゴリズムは、ユーザーの行動履歴に大きく依存し、過去に一定数のユーザーが特定の用語を検索した場合、文字列でマッチングしない製品を購入しても、アルゴリズムはその製品に関連性のある製品とみなし、その後その文字列を検索した際に表示される可能性を高くするものだ。
これはブランドオーナーにとっては問題だ。行動ベースのアルゴリズムは、自分のブランドを検索する際に表示される「関連性のある」製品として、無関係な製品を表示する可能性があるからだ。特定のブランド品や認証マークを探している消費者は、表示された無関係な製品をブランドに関連していると思い込んでしまうおそれがある。オンライン市場が検索エンジン広告を介してユーザーを検索結果に誘導している場合には問題はさらに大きくなる。なぜなら、広告をクリックした時に、消費者は検索したブランドの製品だけが表示されることを期待するだろうからだ。
行動ベースのアルゴリズムで、消費者が商標を混同するような場合に、オンライン市場が責任を負うかどうかは、近年、ドイツの裁判所で様々な角度から検討された。例えば、「Ortlieb」事件では、連邦最高裁判所は、オンライン市場の検索エンジンがアルゴリズムを使用して、商標を含むクエリに対して無関係な商品を表示する場合、プラットフォームの責任は、キーワード広告に関してEU司法裁判所(CJEU)が確立した原則に基づき判断しなければならないと判じた。
したがって、プラットフォームが責任を負うのは、合理的な消費者が商標権者と関連しているかどうかを判断するのが困難な状態で商標権者と無関係の製品が表示されている場合で、これに該当するかどうかは、個別に判断されなければならない。
また、2020年7月の「mk advokaten」事件におけるCJEU判決を受けて、ドイツ連邦最高裁判所が「Ortlieb I」について判断した理由は、EU法と完全に一致していると思われる。「mk advokaten」事件で、CJEUは、商標が商品・サービスの販売促進のための表示や広告に使用される場合に、商標権侵害を引き起こす商標の「使用」が法的に存在することを確認した。つまり、販売者や広告主が無関係の商標を宣伝に使用するように中立的な仲介者に指示した場合、その結果生じる侵害に対して責任を負うことになる。ただし、広告主とは関係なく独立した(オンライン市場にような)事業者が自らの意思と名前で行った場合は、独立した事業者が責任を負うことになる。
オンライン市場で検索結果リストから消費者を誘導するためにキーワード広告に商標を表示することが侵害にあたるかどうかについてもドイツ連邦最高裁判所が判断を示した。「Ortlieb II」で、マーケットプレイスのAdWords広告が特定の商標を付した商品の入手を促進する場合、その広告をクリックした合理的な消費者は、広告されたブランドの商品のみが表示されることを期待し、このような期待があることで、無関係な製品を含む検索結果リストを表示されたときに消費者が欺かれ、当初の広告での商標の使用が出所の混同を生じさせることは明らかだ。
これらの事例は、ブランドオーナーがオンライン市場に対する重要な攻撃材料であり、少なくともドイツの裁判所に於いては、オンライン市場の検索アルゴリズム、AdWords広告やその他の検索エンジンに商標が使用されたことにより、商標の価値を下げると感じた場合に、ブランドオーナーはオンライン市場に異議を唱えることができる。
このような可能性を考慮して、ブランドオーナーには、より広い意味でオンライン市場での商標の使われ方を特定することができるブランド保護ソリューションを採用することを勧めたい。理想的には、オンライン市場が商標に関連するようなサービスをどのように利用しているかに細心の注意を払うと共に、AdWordsやその他のキーワード広告サービスを高度に監視できる方法を検討すべきだろう。
本文は こちら (Think digital: Adapting IP protection strategies for online marketplaces in the EU)