ブランド名や商標の選択は、しばしば潜在的な侵害や異議申立てのリスクを生む。とはいえ、現地の言語的・文化的な配慮もブランド選択プロセスの一部だ。最近起きたソーシャルメディアでの騒動は、文化の盗用がこの問題の大きな要素であることを思い出させてくれると、英国の商標弁護士Luke Portnowが解説する。
この種の見落としがあると、多くはスペイン語圏で販売が低迷した「Vauxhall Nova(Novaはスペイン語で「動かない」の意)」のように評判を落としてしまうものだが、不快感を醸し出さないようにするためには、現地の言語的・文化的なチェックがとても重要になる。
文化への配慮
最近、アパレル業界で起きた「twitter storm(ツイッター・ストーム:多くのTwitterのユーザーが特定の話題に関するツイートを一斉に投稿し、その話題でTwitterを席巻すること)」は、ブランドの選択や使用、マーケティング・キャンペーンを行う際に、言語的・文化的配慮の一環として、文化の盗用を考慮しなければならないことを強調している。
文化の盗用とは、ある文化圏の要素を他の文化圏の者が流用する行為である。これは、少数民族など社会的少数者の文化に対して行った場合、論争の的になりやすい。多くの場合、植民地時代の記憶とも関連している。
悪影響
ニュージーランドはもとより、世界中の広告やマーケティング・キャンペーンでよく使われる例として、ハカ(マオリ族の民族舞踊)があるが、間違った方法や無神経な方法で使われることが多く、マオリ族や多くのヨーロッパ系のニュージーランド人(Pākehā:パケハ)の大きな反感を買っている。これは、キャンペーンに参加しているブランドにとっては悪い影響となる可能性がある。
前述した英国の「ツイッター・ストーム」は、ロンドンにあるアフリカ文化センターに関するもので、この文化センターは、「YORUBA STARS」の英国での商標出願に対して異議を唱えられていたが、そもそもこれは、アウトドア衣料品を販売するTimbuktu社が2015年に取得した「YORUBA」商標の英国での登録が原因であった。
「YORUBA」は、西アフリカ最大級の民族であり言語でナイジェリアの人口の約6分の1を占めている。アフリカ文化センターは、Timbuktu社の商標登録を文化の盗用と見なし、ソーシャルメディア上でその立場を明らかにした。この発信は瞬く間に広まり、世界中の多くの団体やコミュニティがオンライン上で不快感を表明した。
不快感は「Yoruba」の登録だけではなく、「Timbuktu(トンブクトゥ:マリ共和国の砂漠の民トゥアレグ族の都市)」の使用と登録が、それまでこのアパレルブランドを知らなかった人々にも懸念を与えた。「Timbuktu」の使用と登録は、文化の盗用であり、マリ共和国の歴史的・文化的意義を貶めようとしているのではないかと考える人も少なくなかった。
賢明な商標戦略
特定の文化、言語、地名に関連する文字の商標登録を取得することは、決して珍しいことではない。実際、英国の登録簿には、「Zulu(ズールー)」、「Inca(インカ)」、「Quechua(ケチュア)」、「Celtic(ケルト)」、「Welsh(ウェールズ)」などの文字を含む多くの商標登録(25類の衣服などに)があり、「Celtic」や「Welsh」も保護されている。また、英国知的財産庁は、登録者の意図やその使用が文化の盗用であるという理由での商標登録に対する異議申立てや登録の取消請求を認めていない(公共政策や認められた道徳の原則に反する場合を除く)。
しかし、「Yoruba」と「Timbuktu」の問題は完全には解決しておらず、請求人は「Timbuktu」が「Yoruba Stars」の商標に対する異議申立てを撤回したと述べているが、この論争は、文化の盗用がより一般的な言語や文化的側面を考える重要な部分を形成していることを思い出させる有益なものだ。
出願前にチェックを!
一旦このような問題が指摘されると、ソーシャルメディアで大騒ぎになるため、文化的な関連性を見落とすと、ブランドのアイデンティティや消費者のロイヤリティに重大な影響を及ぼすおそれがある。
ハカを使用した宣伝キャンペーンのように、新しいブランド(商標)を検討する際には、少なくともその標章が使用される予定の国や販売される予定の国において、その標章がどのような意味を持つのかを十分に検討する必要がある。
新しいブランドやサブブランドを選択する際には、これらの点を考慮した上で、リーガルアドバイスを受けることがベスト・プラクティスと言えるだろう。