2021-08-19

英国:Sky vs SkyKick、続報 - Marks & Clerk

2021年7月26日、英国控訴院 (Court of Appeal)は、SkyとSkyKickの間で長く続いていた商標権争いに判決を下した。この判決は、ここ数年、ブランドオーナーにとって最も待ち望まれていた判決の一つだ。控訴院は、Skyの商標は指定する商品・サービスの範囲が広すぎるが故に悪意があるという理由で無効とした高等法院の判決を覆した。この判決は、多くのブランドオーナーにとって歓迎すべきものであるが、以下に述べるように、特に特定の区分における登録の乱立という問題を引き起こす可能性もある。

背景
2018年、SkyはSkyKickに対し、同社のクラウド移行(cloud migration)、クラウドバックアップ(cloud backup)、クラウド管理サービス(cloud management services)に関連して、商標権侵害とパッシングオフ(詐称通用)を理由に訴訟を提起した。SkyKickは侵害を否定し、次の2つを理由としてSky商標の無効を求めて反訴した。(i) 指定商品・サービスの記載が明確性と正確性を欠いている、(ii) 悪意の出願である。アーノルド判事(当時)が高等法院で審理し判決を下したが、いくつかの重要な問題についてはCJEU(欧州連合司法裁判所)に予備判決を請求した。 

2020年1月、CJEUは以下のことを確認した。(i) 指定商品・サービスの明確性や正確性の欠如だけで無効の根拠とはならない、(ii) 出願に合理的な商業的原理がない場合、悪意により商標の全部または一部が無効となることがある。

高等法院は、2020年6月にCJEUの予備判決を受けて判決を下した。Skyの主張する商標権侵害を認めたが、パッシングオフの主張を棄却した。高等法院はまた、Skyが指定した商品・サービスのすべてに商標を使用する意図がなかったとして、Skyが悪意を持って一部の商標を出願したとの判断を示した。

両当事者は許可を得て控訴した。
* Skyは、部分的無効の認定とそれに伴う商標の指定の制限およびパッシングオフの棄却に対して控訴した。
* SkyKickは、侵害の認定に対して交差控訴してSkyの指定のさらなる制限を主張した。

判決
控訴院は、Skyに対して悪意に基づく部分的無効の認定を取り消した。Skyの商標出願は、Skyが「現在の実質的な取引と将来の取引の期待」となる商品・サービスに関連して行われたものであり、第三者の使用を阻止する独占的な権利を得ることのみを意図して行われたものではないとし、Skyの広範なブランド認知により広範囲の保護を正当化できるとの判断を示した。
控訴院は、悪意に関する第一審判決の核心的な理由を2つの主要な結論に基づいて検討した。
1. 指定商品・サービスとして記載されている一部の商品とサービスに関して、Skyは出願日に商標を使用する意図はなく、使用する見通しもなかった(「使用の見通しがない結論(the no prospect of use conclusion)」)。
2. 商標は、商業的に正当であるかどうかにかかわらず、広範囲の保護を求める意図的な戦略に基づいて出願された(「広範な戦略/正当性なしの結論(the broad strategy/no justification conclusion)」)。

1つ目の結論に関連して、控訴院は、コンピュータ・ソフトウェアのような商品区分に含まれる多くの商品で標章を使用する見込みがないということは、必ずしも不適切なことではなく、客観的な悪意を示すものではないと判断した。もしSky が特定の区分全体で標章を使用する意図を全く持っていなかった場合は異なる結果となるだろう。

2つ目の結論について、控訴院は、商標の出願人は悪意の非難を避けるために、一般的な記述に該当するあらゆる種類の商品・サービスに対して商標を使用するための商業戦略を策定する必要はないとして、出願人は「私は記載Xに該当する特定の商品に商標を使用している」と言う権利があり、「その記載商品に関する私のビジネスが今後5年間でどこまで発展するか正確には分からないが、そのような商品は間違いなく今よりも増えるだろう」と言う権利がある。

パッシングオフ棄却に対するSkyの控訴は再度棄却された。SkyKickの部分的有効性に関する交差控訴も棄却され、侵害に関する交差控訴はSkyの上告の結果により無意味になった。

判決についてのコメント
本判決は、商標出願人にとって歓迎すべき判決であり、商品・サービスの広範囲な指定が、より狭く定義されたものよりも好ましいかどうかという問題について、ある程度の明確性を提供するものである。この判決は、悪意を持って出願されたことによる無効化のリスクなしに、広範囲に出願を行うことができるという安心感を与えてくれるものだ。しかし、特定の区分に商標を使用する意図が全くない場合には、悪意があると認定される可能性も残されている。指定商品・サービスのリストは、出願人がすでに行っている、あるいは将来行う可能性のあるビジネスとの関連性を確保するために、慎重に作成する必要がある。

本文は こちら (Sky v SkyKick: SkyKicked into touch)