Guangzhou Aichi Leather Products Co., Ltd.(以下、「愛馳」)が、Ralph Lauren Trading (Shanghai) Co., Ltd.(以下、「ラルフローレン」)を提訴した商標権侵害訴訟において、北京知的財産裁判所は一審の判決を破棄し、ラルフ・ローレンによる「POLO」ロゴの使用で混同は生じず、愛馳の登録商標を侵害しないとする逆転判決を下した。
基本的事実
愛馳の関連会社が2002年9月に商標「POLO」を第18類のバッグ等を指定して出願し、2007年8月に登録が認められた(登録番号:3301575)。その後、この商標は愛馳に譲渡された。ラルフローレンの親会社は、第18類のバッグ等を指定した「POLO BY RALPH LAUREN(登録番号:1230236)」と「POLO RALPH LAUREN(登録番号:162757)」という先行する登録商標を保有していた。
愛馳は、2016年7月に北京のサイテック・ショッピングモールと上海新世界大丸ショッピングモールにあるラルフローレンの店舗で数十個のバッグを購入した。これらのバッグには、いずれも「Brand name: Ralph Lauren」、「Ralph Lauren Trading (Shanghai) Co., Ltd.」と書かれたタグが付いており、バッグには「POLO RALPH LAUREN」のロゴが入っていたが、「POLO」と「RALPH LAUREN」は二段併記されており、「POLO」が目立つように大きく刺繍されていた。愛馳は、ラルフローレンとサイテックを商標権侵害で提訴し約800万元の賠償を請求した。
以下に、標章の使用例(ラルフローレンの公式サイトより)と、ラルフローレンの店舗の写真を掲載する。
一審判決
第一審の北京市朝陽区人民法院は、ラルフローレンがバッグに使用したロゴは、愛馳の登録商標と同一または類似する商標の使用にあたることを認めた。北京市朝陽区人民法院は、ラルフローレンがバッグに使用したロゴは愛馳の登録商標と同一または類似する商標で、ラルフローレンの侵害行為は商品の出所について関連する消費者に混同や誤解を与える虞があり、愛馳の商標登録による独占的権利を侵害したと認定し、ラルフローレンの行為は「明らかに悪質」であり、様々な要因を考慮して原告に300万人民元の損害賠償を払うよう命じた。サイテックに対しては、バッグを販売するための合法的な許可を得ており、侵害品であることを知らなかったため、損害賠償責任を認めなかった。
この判決を不服としたラルフローレンは控訴した。
二審判決
北京知的財産裁判所は、一審判決を破棄し愛馳の請求をすべて棄却した。それは次のように判示した。
商標の基本的な機能は、商品・サービスの出所を区別することであり、事業者が商業活動で使用するロゴが商標権侵害を構成するかどうかの判断は、具体的なロゴの使用により、商標と商品・サービスとの関連性が失われるかどうか、すなわち、関連する公衆に商品・サービスの出所について混同または誤解を生じさせるかどうか、または、悪意を持って他人のグッドウィルを利用する意図があるかどうかに基づいて行わなければならない。
具体的には
ラルフローレンは、一部の商品に「POLO」の文字を目立つように表示していたが、本店の看板には「RALPH LAUREN」を使用しており、侵害疑義商品には「POLO RALPH LAUREN」の刺繍があり、また、タグには「POLO RALPH LAUREN」の標章と「RALPH LAUREN TRADING(SHANGHAI)CO.LTD」の社名が記載されていた。また、ラルフローレンの店舗で展示・販売されており、商品の提供者が明らかになっていた。愛馳は、自らが当該商品に当該標章を使用していることや、当該使用によって得られた評判の存在を示す証拠を提出しなかった。消費者がラルフローレンの店舗に入って本件商品を購入した場合、消費者は、本件商品がラルフローレンの商品であることを明確に認識するため、愛馳や愛馳の商標を連想したり、両者の間に何らかの関係があると誤認させたりすることはない。したがって、ラルフローレンが本件商標を使用しても、商品の出所について混同や誤解を招くことはない。
ラルフローレンが提出した証拠によると、その親会社は、衣類、バッグなどの商品に対してPOLOを含む複数の商標の登録を申請していた。ラルフローレンの商標は、広範なプロモーションと使用の結果、ラルフローレンとその親会社との安定した関係を確立しており、また、一定の評価と影響力を得ている。これに対し、愛馳は「POLO」商標をバッグに使用していることを証明する証拠や評判を示す証拠を提出していない。したがって、ラルフローレンが、自社ブランドの店舗で侵害疑義商品を販売する際の競争上の優位性を高めるために、悪意を持って愛馳の商標のグッドウィルを利用しようとする意図も客観的理由も確認されない。愛馳は本件商標の正当な権利者として主張する権利があるが、ラルフローレンの使用は市場に混乱をもたらすとは認められないため、当該行為は商標権侵害には当たらない。
コメント
この事件で、第二審裁判所は商標権侵害と「悪意」があったかどうかを判断する際に、様々な要素を考慮した。その中には、侵害を疑われる者による標章の使用方法や状況、それまでの標章の使用期間、規模、使用による影響力、標章と使用者の間に安定した関係性が形成されているかどうかなどが含まれていた。また、原告の標章の使用状況や影響力についても審理した。ラルフローレンは、愛馳が悪意を持って自社の商標を先取りし、ラルフローレンのグッドウィルに乗っかったと主張したが、裁判所は愛馳が当該商標を先取りして出願したかどうかについてはコメントしなかった。しかし、少なくとも第二審の判決は、商標の不法取得者(trademark squatter)が権利を取得した後に起こす侵害訴訟における悪意ある主張や手続きの乱用に直面している真の商標権者にいくらかの安心を与えるものになった。
本文は こちら (Beijing IP Court overturns previous finding of infringement in “POLO” case)