商標戦略には良いものと悪いものがある。良い戦略とは、ビジネスを展開している国や、将来的にビジネスを展開する予定の国で、最適な保護を確保することで、悪い商標戦略には、自分にとって悪いものと、誰かにとって悪いものの2種類がある。最近のAGATE事件は、驚くべきことに、この2つの悪い選択肢の良い例である。
AGATEは、もともと中国の自動車用タイヤのブランドで、2014年からブルガリアで地元企業のOmnifak社がAGATEのタイヤを販売している。しかし、Omnifak社も中国の会社も、「AGATE」をブルガリアでもEUでも商標登録していなかった。ところが、2017年にブルガリアのライバルのタイヤメーカーが「AGATE」をEUで商標登録した。
登録のほぼ直後、このライバル企業は、Omnifak社の商標使用に正式に異議を唱え、Omnifak社の顧客に近づき、Omnifak社ではなく、「本当の」商標権者と取引するように告げた。また、中国の会社に「AGATE」商標を3,600万ユーロで売却すると提案した。中国の会社はこの申し出を丁寧に拒絶し、悪意の商標出願であることを理由で登録の無効を請求し、勝利した。
悪意
EUの一般裁判所は判決の中で、「悪意」の概念は「不正な心理状態および意図の存在を前提」としており、商標登録は、「公正な競争を目的としたものではなく、良心的な慣行と矛盾する方法で第三者の利益を損なうことを目的として」申請された場合には無効となるべきものだと述べている。そして裁判所は、それは確かに今回のケースに当てはまると判断した。
また、この判決は、ライバルのタイヤ会社が、中国の会社がブルガリアで「AGATE」商標を保護していないことを悪用しようとしたとも述べている。
そして、それこそがこの事件の本質なのだ。過失から利益を得る。中国の会社が、EUでビジネスを始めた時、あるいはビジネスを始める前に「AGATE」商標を登録していれば、何年にもわたる裁判の厄介さや多大な費用を回避できたはずで、これは、旅行に出かけるときに玄関のドアを開けっ放しにしておくようなものだ。泥棒に悪意があるのはもちろんだが、もし玄関に鍵をかけていたら、旅行がどれほど快適だっただろう。